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チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年4月19日

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高口康太 (たかぐち・こうた)

ジャーナリスト

1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ジャーナリストとして活躍。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版)など多数。千葉大学客員准教授を兼務。

 思い返せば、14年に香港の主要道路を占拠した抗議活動「雨傘運動」は、普通選挙による行政長官選挙を求めるものだった。現行の行政長官選挙は業界団体や地域から選ばれた選挙委員会のみが最終的な投票権を持つ。

 香港返還にあたり定められた「香港特別行政区基本法」は最終的に普通選挙に移行するとの規定を持っていたが、中国共産党が認めた改革案は立候補者の資格認定を厳格化し、中国の意に沿う候補者にしぼった上で選挙するというものだった。これに反発して雨傘運動が起きたわけだが、8年が過ぎた今、状況は大きく後退している。普通選挙が実現されなかったばかりか、中国共産党は露骨に介入し親中派の行動までも事細かに指図するようになっている。

香港の政治課題にあり続ける「経済」

 1997年の香港返還と同時に成立した香港特別行政区政府の初代行政長官は、海運会社OOCLの二代目社長として知られる董建華氏であった。2代目長官の曽蔭権(ドナルド・ツァン)氏は経済畑の公務員、3代目長官の梁振英氏は不動産コンサルタント出身、そしてまもなく任期を終える4代目の林鄭月娥(キャリー・ラム)氏は発展局局長を務めた経済官僚であった。

 ビジネスマンと経済官僚が交互にトップを務めてきたわけだが、ここにきて警察官出身という今までにないトップが誕生することとなった。2019年の抗議デモに対する強硬な鎮圧、20年の国家安全法成立とその後のデモ参加者の逮捕は国際社会から強く批判されているが、中国共産党は肯定的に見ていることがうかがえる。

 実際、デモの抑え込みという観点だけから見れば、望みどおりの結果が得られたと言えるのかもしれない。日本でもよく知られている活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏は20年12月から約7カ月にわたり収監され、出所後も沈黙を守っている。

 しかしながら、連綿と続く香港の抗議活動では「普通選挙を求める」などの政治的要求が全面に出ているものの、むしろ背景にあるのは経済的要因だ。

 「問題は香港返還後の新自由主義的政策にあった」

 元香港立法会議員の區諾軒(オウ・ダクケン)氏は20年、筆者の取材に答えて、香港問題の根本について話している。財政均衡の名のもと、社会福祉の財政支出は削減され、教育など公共サービスの劣化が進んだ。

 特にもっとも香港住民の不満を招いたのは不動産問題だ。公営賃貸住宅の建設は減速する一方で、猛烈な不動産価格の上昇が起きた。地価の上昇は経済成長につながる一方で、不動産資産を持つ住民と持たない住民の間の資産格差が大きく開いていった。

 雨傘運動以後、筆者はたびたび香港を取材したが、耳にしたのは普通選挙を獲得したい、香港人としてのアイデンティティを守りたいという主張だけではない。地価の上昇により、老舗の飲食店が潰れてしまいより儲かる観光客向けの土産物屋に変わってしまった、公共団地の抽選になかなか当たらないが中国本土からの移民が優遇されているのではないかといった不満もたびたび耳にした。

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