2022年7月6日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年4月19日

»著者プロフィール
著者
閉じる

高口康太 (たかぐち・こうた)

ジャーナリスト

1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ジャーナリストとして活躍。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版)など多数。千葉大学客員准教授を兼務。

李家超氏の経済政策手腕に注目

 興味深いのは、中国共産党はこうした問題について、むしろ懸念する立場にあったという点だ。レオ F・グッドスタット『香港 失政の軌跡』(曽根康雄監訳、白桃書房、2021年)は、香港返還後に財界の意向を汲んだ新自由主義的な政策が加速したことを描いている好著だ。香港の政策を中国共産党はどのように見ていたのか。同書はきわめて象徴的な、温家宝首相(当時)の発言を紹介している。

 「充分な政府収入と潤沢な外貨準備があるのだから、香港はそのような有利な条件を最大限活用して社会のセーフティネットを改善し、特に社会的弱者に気を配ることで、香港の人々がより良い生活を送れるようにするべきだ」(11年3月14日、中外記者会見における温家宝首相の発言。『香港 失政の軌跡』37ページより)

 中国本土においても格差拡大は大きな社会問題となっているだけに不思議な発言にも思えるが、中国共産党は噴出する不満に押し込めるべく、農村地域における税負担の軽減や公共住宅の建設など、さまざまな施策を打ち出していた。そうした施策は十分なものではなかったかもしれないが、人々の暮らしを改善しなければ政府に不満が向くとの危機感は強烈に持っていたことは間違いない。

 特に11年当時は群衆事件と呼ばれる抗議デモやストライキの最盛期であった。不満抑え込みの陣頭指揮をとっていた温家宝首相と中国共産党の目からすると、豊富なリソースを持ちながらも、活用せずに市民の不満が高まるままにしていた香港政府のやり方は不可解であったのだろう。

 俗に「商人治港」(ビジネスマンによる香港統治)、「精英治港」(エリートによる香港統治)と言われるが、1997年以後、香港の政治をリードしたのはビジネスマンと経済官僚たちであった。彼らは中国共産党の後ろ盾をいいことに、独自の経済政策を追求し、そして中産以下の所得層の香港住民から強い反発を招いたわけだ。強権によってデモの封じ込めに成功したとはいえ、根本である経済問題を解消しなければ、不満はなんらかの形で噴出することになるだろう。

 問題は李家超氏にそれができるのか、だ。商人と精英が交代で行政長官を務めてきた過去とは大きく変化する可能性は高いが、経済政策に対する手腕はまったくの未知数だ。李家超氏も問題は認識している。自らが公営賃貸住宅育ちの庶民派であることをアピールし、貧しい人々の声に耳を傾けると訴えている。それをどこまで政策に落とし込むことができるのかが問われることになろう。

 
高口康太氏が中国の教育業界に起きている〝変革〟をレポートした「「学歴偏重」にメス入れる中国 それでも不満はなくならない」はWedge Online Premiumにてご購入することができます。

  
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る