――大洋クルーズに出たい夢を持っている人に貸与したいと思っているそうだ。自分で整備してくれるんだったら、無償でもいいとも考えている。(中略)読者諸兄の皆さん、どうだろう? 夢は生きているうちに果たさなければ、楽しくないと思うのだが。(編集部から:エオラスでの航海に興味のある方は、プロフィールとやりたいことを記載し、編集部までE-mailで御連絡ください)
これに岩本さんが応募した。高校生の頃、視力を失い、海へ飛び込むことも考えたが、指圧や鍼灸の資格を取り、渡米。ヨットと出会い、一度は身を投じようとした海が大好きな海に変わった。いつかは太平洋横断をと、経験を積んでいた岩本さんは、記事を見逃さなかった。
比企さんは悩んだ。岩本さんがシングルハンド(1人乗り)で挑戦するとなると管制塔機能に億単位の費用がかかる。アースマラソンを企画し、寛平さんと太平洋、大西洋と渡った比企さんにできない企画ではない。だが、比企さんはその頃、会社を辞めたくなっていた。
「実は断りに来た。会社辞めようかと思ってる。ヨットも持ち続けられるかわからない。期待させてすまない」
「吉本の比企さんに頼んだんじゃない。アースマラソンの比企さんに頼んだんだ」
熱く訴える岩本さんに、比企さんの心は揺れ動いた。
「最悪、アメリカに着いて自艇を売り払えばなんとかなるか。やるかあ……と。会社を辞めてやるとなると、費用が高すぎるシングルハンドは無理。ダブルハンドに切り替えました。2人となると物語が要る。思いついたのが辛坊さんでした」
その約1年前、比企さんは、寛平さんを通じて辛坊さんの夢がヨット世界一周だと聞いていた。それが頭にあった比企さんは、「岩本さんと辛坊さんのダブルハンドなら物語になる」と、帰国後すぐ連絡をとった。2人が会うのはまだ2度目である。比企さんの話にじっと耳を傾けた辛坊さんは言った。
「それ、面白いですねぇ」