2024年4月19日(金)

Wedge REPORT

2013年4月2日

――大洋クルーズに出たい夢を持っている人に貸与したいと思っているそうだ。自分で整備してくれるんだったら、無償でもいいとも考えている。(中略)読者諸兄の皆さん、どうだろう? 夢は生きているうちに果たさなければ、楽しくないと思うのだが。(編集部から:エオラスでの航海に興味のある方は、プロフィールとやりたいことを記載し、編集部までE-mailで御連絡ください)

船長として、床板の下から個々の機器類の整備状況までヨットの隅々を確認する辛坊さん (撮影:田中まこと)

 これに岩本さんが応募した。高校生の頃、視力を失い、海へ飛び込むことも考えたが、指圧や鍼灸の資格を取り、渡米。ヨットと出会い、一度は身を投じようとした海が大好きな海に変わった。いつかは太平洋横断をと、経験を積んでいた岩本さんは、記事を見逃さなかった。

 比企さんは悩んだ。岩本さんがシングルハンド(1人乗り)で挑戦するとなると管制塔機能に億単位の費用がかかる。アースマラソンを企画し、寛平さんと太平洋、大西洋と渡った比企さんにできない企画ではない。だが、比企さんはその頃、会社を辞めたくなっていた。

 「実は断りに来た。会社辞めようかと思ってる。ヨットも持ち続けられるかわからない。期待させてすまない」

 「吉本の比企さんに頼んだんじゃない。アースマラソンの比企さんに頼んだんだ」

 熱く訴える岩本さんに、比企さんの心は揺れ動いた。

約半年かけてヨットのあらゆる箇所を整備し直した比企さん。作業は想像以上にハードだった (撮影:田中まこと)

 「最悪、アメリカに着いて自艇を売り払えばなんとかなるか。やるかあ……と。会社を辞めてやるとなると、費用が高すぎるシングルハンドは無理。ダブルハンドに切り替えました。2人となると物語が要る。思いついたのが辛坊さんでした」

 その約1年前、比企さんは、寛平さんを通じて辛坊さんの夢がヨット世界一周だと聞いていた。それが頭にあった比企さんは、「岩本さんと辛坊さんのダブルハンドなら物語になる」と、帰国後すぐ連絡をとった。2人が会うのはまだ2度目である。比企さんの話にじっと耳を傾けた辛坊さんは言った。

 「それ、面白いですねぇ」


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