2019年時点で37の大学が、85のIT関連プログラムを確立しており、有望な学生を育成するために、少なくとも1つの新しい中学校を設立している。これらの学生は、卒業後、IT技術をさらに向上させるため、北朝鮮の各地域のIT研究センターで、追加のトレーニングを受けることになっている。
さらに多くの場合は、東アフリカ、東南アジア、南アジアでトレーニングを受けており、実践経験を積み重ねている。北朝鮮のIT技術者は、歴史的にこれらの国々と交流しており、IT技術の実践の場となっているようだ。
すでに数千人ものIT技術者が海外に派遣されているが、主たる派遣先は、中国とロシアである。彼らの稼ぎは、従来の北朝鮮の派遣労働者とは比べものにならない。中には、年間30万ドル(約3750万円)以上稼ぐ者もおり、1チームで年間300万ドル(約3億7500万円)にも及ぶ収入を得ているケースもある。
これらの収益は北朝鮮政府によって、最大9割が差し押さえられており、年間数億ドルもの収入が北朝鮮政府にもたらされているのだ。北朝鮮の核兵器や弾道ミサイルを含む兵器の軍事装備品の研究開発と生産を管理する軍需工業部(Munitions Industry Department)第313総局は、朝鮮労働党中央委員会に従属する機関だが、北朝鮮の大部分のIT技術者は、ここから海外に派遣されていることから、これらの収益は、核開発やミサイルの開発資金になっているとみられている。
高度な開発技術で機密情報も取得
北朝鮮のIT技術者がこれほどまでに稼ぎをあげられる理由には、最先端のIT技術取得がある。モバイルアプリケーションはもちろんのこと、グラフィックアニメーションやモバイルゲームなどをはじめ、人工知能関連のアプリケーションやVR(拡張現実)のプログラミングなどもこなすからである。
北朝鮮のIT労働者が開発するソフトウェアはさまざまだが、一部のIT労働者は、仮想通貨取引所を設計したり、仮想通貨トレーダー向けの分析ツールを開発したりもしている。
こうした技術力を武器に外貨を稼ぐ北朝鮮のIT技術者だが、彼らには外貨収入以外にも目的がある。それは不正なロジックをプログラムに組み込んだり、バックドアと呼ばれる遠隔操作が可能な機能を組み込みセキュリティ機能を回避したり、あるいは開発の過程でその企業の機密情報を盗み出したりすることである。まさにソフトウェアの開発は、北朝鮮政府にとって一挙両得の戦略なのである。
そのためには、身元を隠す必要がある。北朝鮮のIT技術者は、身元証明書を含む偽造または改ざんされた文書、署名を日常的に使用しているとされる。
海外派遣労働者には、偽造または改ざんされた運転免許証、社会保証カード、パスポート、国民識別カード、居住外国人カード、高校および大学の卒業証書、就労ビザ、クレジットカード(デビットカード)、銀行口座などが与えられる。北朝鮮のIT労働者は、これらの情報をもとにIT労働者に必要とされるアカウントを複数、開設するのである。