2024年10月6日(日)

デジタル時代の経営・安全保障学

2022年5月27日

見破るのが困難なフリーランス

 筆者が、今回の捜査がFBIからの情報にもとづくと判断する理由に5月16日に米国務省、財務省およびFBIが共同で提出した勧告書があるからだ。「朝鮮民主主義人民共和国に関するガイダンス 情報技術労働者」と題するこの勧告書は、北朝鮮のIT技術者が非北朝鮮国民を装いながら雇用を得ていることについて、国際社会、民間部門および一般市民に対して警告を発する目的で発表されたものである。

 添付されているファクトシートには、北朝鮮のIT技術者がフリーランス・ワーク・プラットフォオーム(Freelance Work Platform)やデジタル決済プラットフォームを悪用していることや、企業が北朝鮮のIT技術者の雇用を回避する方法についても詳細に情報を提供している。

北朝鮮技術者が身元を隠し、システム開発を請け負う流れ(出所)「朝鮮民主主義人民共和国に関するガイダンス 情報技術労働者」 写真を拡大

 フリーランス・ワーク・プラットフォオームとは、今回、報道されている「仲介サイト」のことである。IT技術者やイラストレータなど、手に職のある個人が登録しておき、仕事を抱えた個人や企業がその仕事の適任者を検索し、マッチングさせるサービスだ。米国ではFiverrやToptal、日本でもランサーズやレバテックなどのプラットフォームが営業している。

 中国や東南アジアに派遣された北朝鮮のIT技術者達は、偽造IDを使用して、このフリーランス・ワーク・プラットフォオームに登録し、システム開発を請け負っている。ガイダンスでは、北朝鮮のIT技術者らは、仮想プライベートネットワーク(VPN)や仮想プライベートサーバー(VPS)を使用して、プラットフォームにアクセスしており、北朝鮮以外の外国人または米国を拠点とするテレワーカーと偽っているとしている。

 フリーランスが北朝鮮のIT技術者か見破る方法として、
・短時間にさまざまなIPアドレスから1つのアカウントにログインしている。
・中国の決済プラットフォームを使用して頻繁な送金を繰り返している。
・中国の銀行口座や仮想通貨での支払いを求めてくる。
・フリーランス・ワーク・プラットフォオームやSNS、決済プラットフォームに登録されているフリーランスのプロファイル欄の名前のスペルミスや国籍、勤務地、連絡先情報、学歴などに不整合な記載がある。
・フリーランス・ワーク・プラットフォオーム上の評価を上げるために不正な業務委託者のアクウントを用いて評価を書き込んでいるが、受託者と同じPaypal(決済プラットフォーム)などのアカウントが使用されている。
・プロジェクトへの入札数と落札した数が同じである。
など、一般市民のレベルや企業担当者のレベルでは入手が不可能と思える項目が並んでいるのが残念だ。

企業内の工作員にも注意が必要

 今回の米国政府による勧告は、フリーランスのIT技術者を下請けで使うことの危険性をあらためて認識させた一方、民間人のレベルでは偽装した北朝鮮のIT技術者を見破ることが困難であることが示されている。プロファイルの不整合な記載は、参考にはなるが、北朝鮮技術者のケアレスミスにすがるしかないことは、決め手にはならない。

 また、今回の勧告書はフリーランスの問題を取り上げたものだが、正規社員の中にも北朝鮮や中国の工作員が入り込んでいることにも注意が必要だ。中国や北朝鮮の工作員は数十年もの間、日本企業に入り込んでいるため製造や研究開発部門だけではなく、人事や経理といった間接部門にも入り込んでいる。このため、人の採用や外注手配まで工作員で占められているケースもある。

 企業にはフリーランスの使用に注意を払うだけでなく、正規社員の適正な人事ローティションが求められる。

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