2023年2月8日(水)

お花畑の農業論にモノ申す

2022年5月31日

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熊野孝文 (くまの・たかふみ)

元米穀新聞記者

1954年生まれ。東京経済大学中退後、コメの相場情報として米穀市況を速報する仕事に8年従事し、米穀新聞の記者として農家と卸売業者、小売店と、それぞれが取引する現場を40年取材してきた。近書に『ブランド米開発競争―美味いコメ作りの舞台裏』(中央公論新社)。

コメ卸の現場は「現物市場と先物市場の両方が必要」

 現物市場の必要性については、「現在、コメの価格を決める重要な要素になっているのが全農系統が毎年秋に示す概算金で、これまでこの価格は市場メカニズム以外のところで決められている。この概算金の決定プロセスを透明にするためにも市場で決まる価格が必要」との意見が出た。また、「完全自由化はあり得ないが、生産者の所得補償は必要で、現物市場と先物市場を作って最低限の所得補償をするのが本来の政策で、これによってマーケットと生産者を守る」という意見もあった。

 国産・輸入ともに開かれた市場のない小麦市場との違いについて「小麦は国が一元管理しており、製粉も大手4社の寡占状態で、コメとは全く違う。だからこそコメは現物市場と先物市場という2つの市場の重要性がある」との指摘が出た。「しかもコメは全農の取り扱いシェアが落ち込み、一般的なコモディティー商品になりつつある。市場によるコメの位置付けをどうして行くのかと言う根本的問題もある。農水省にとってコメは管理と言う意味では最後の砦だが、実際のマーケットはさまざまな取引のワンオブゼムになりかけている。そういうことが分かる人が議論に参加しなくてはダメだと思う」と言う。

 コメの価格をドラスティックに全て市場に任せるというのは参加した卸によって意見の違いがあった。それはコメ卸にとって最大の経営課題であるコメの在庫評価をどうするのかという点で、市場で値幅制限もなく価格を決めて行くことに反対する意見もあった。ただ、これは先物市場があればリスクヘッジでき、評価損も処理する方法があるので、やはり現物市場と先物市場の両方の市場が必要だという意見が強かった。

 参加したコメ卸の経営者はいずれも〝市場〟の持つ意味をよく理解しており、発言には説得力があるが、残念ながらこうした意見がコメの卸、流通業者の大方の意見ではない。ありていに言ってしまえば「コメの価格が明らかにならない方が良い」と考えているコメ業界人が多いのが実態で、コメ業界全体の体質を変えない限り、コメを産業化するための「市場」の設立は遠のくばかりである。

  
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