5月の東京における日米豪印4カ国によるクアッド首脳会議では、IPMDA(海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ)が発表された。世上あまり注目されていないようであるが、意義のある重視すべきイニシアティブと考えられる。
その内容は、ルールに基づく海洋秩序に対する挑戦に対抗するために、違法漁業、瀬取り、密輸など、違法な活動を継続的にモニターすることを目的とするものである。衛星技術によってこの地域の幾つかの既存の監視センターを繋ぎ包括的な追跡システムを作るとしている。
念頭にあるのは中国の漁船団による収奪的な漁業である。米国の当局者は「この地域における違法漁業の95%は中国によるものだ」と述べている。南シナ海その他海域におけるその活動はつとに報道されているが、2020年夏には300隻近い漁船団がエクアドル領ガラパゴス諸島の周辺海域に出現し、荒っぽい漁業を行い環境破壊の懸念を惹起する事件を起こしている。
しかし、それだけではない筈である。中国の漁船には偽装漁船もあり、その実態は解明されていないが、海警の船舶と連動して、いわゆる海上民兵として政治目的のために行動する例がある。
昨年3月からほぼ1カ月の間、中国の海上民兵とおぼしき多数の船舶が南沙諸島のウィットサン礁(フィリピンの排他的経済水域内にある)に集結する奇怪な行動をしたのも、その一つである。クアッドの共同声明には「海上保安機関の船舶及び海上民兵の危険な使用」を含む「威圧的、挑発的又は一方的な行動」に反対するとの文言はあるが、IPMDAと関連付けることは(恐らくは意図的に――反カ国色が強過ぎるとパートナーを募ることに支障が生ずる)避けている。しかし、海上民兵は最も警戒を要する問題の一つであり、これがIPMDAの継続的モニターの対象を外れることはあり得ないだろう。