豪州のシンクタンクASPI(豪州戦略政策研究所)のピーター・ジェニングス所長が、4月21日付の同研究所のサイトで、中国とソロモンの安全保障協定の締結は豪州の国防政策の失敗であるが、東方面の防衛力を強化する等、未だソロモンを挽回できるだろうと述べている。
今回の中国とソロモンとの安全保障協力協定の締結は、特にジェニングス等、豪州の国防専門家にとっては大きなショックになっているように見える。政治についてもそうである。
豪州は5月21日の選挙に向けて選挙運動中である。対中国政策の成功を最大の武器に選挙戦を進めていたモリソン首相は、中国とソロモンの合意を阻止することに失敗したことを、野党労働党から厳しく批判されている。今回の出来事は、豪州の総選挙にも影響を与えかねない。
ジェニングスは、
① 安全保障協力協定の締結は、単に中国の秘密作戦を阻止できなかったことに留まらず、より大きな問題として長年にわたり太平洋での影響力を過剰評価し、防衛力への十分な投資を怠り、中国の戦略的意図の評価に失敗したことを表す。
② ドローンなどを含め豪州の東側方面での防衛力を集中的に強化することが必要だ。
③ 豪州は未だソロモン諸島を取り戻すことは可能だ。
と言う。しかし、そう楽観的にはなれない。扉の間に足を入れることに成功した中国が引くとは思えない。
更にジェニングスは、今回、合意に基づき、5月21日の豪州の選挙が終わる迄に、中国軍の貨物機や船舶がホニアラに「補給」や「寄港」のために必要な物資、「主要プロジェクトの実施」に必要な物資を搬入するだろうと予測する。中国のやり方からすると、あながち否定できない。また、モリソン首相が今週追加建造すると発表した哨戒艇二隻は、ホニアラにある豪州・ソロモン共同施設に配備するようソロモンに提案すべきだと言う。良いアイディアではないかと思われる。
4月19日と翌日、中国とソロモン諸島は協定を「最近」締結したと夫々発表した。タイミングは如何にも電撃的だった。4月22日の米国安全保障会議(NSC)のインド太平洋調整官であるキャンベルらのソロモン到着前に、先制的に締結を既成事実化したようだ。
中国が香港国家安全維持法でやったような迅速な既成事実化と同様だ。西側が裏をかかれたとの感を免れない。時系列的には、4月18日に米国がキャンベルのソロモン訪問の日程を発表し、19日に中国が締結したことを発表し、20日にソロモンが中国に追随した。しかも中国、ソロモン共に正確な締結日は明かさず、単に「最近」としている。