10人を目標に
職人を自社で育てる
本物を作り続ける上で、もうひとつ大きな問題がある。製造を支えている職人が高齢化し、モノづくりの灯が消えかねないところにきているのだ。
東京の下町のモノづくりは、地域に点在する職人の分業で成り立ってきた。前原光榮商店のある台東区周辺はまさにそうした地域だ。傘も大きく分ければ4つの分業だと書いたが、さらに小さな部品の製造など、多くの職人が関わっている。そうした地域の職人たちが姿を消していっているのだ。業界団体である東京都洋傘協同組合に加入している比較的規模の大きい会社だけでも、かつて100はあったものが30くらいにまで減っている。
「国内でのモノづくりを続けようと思えば、自社で職人を育てていくしかない」と前原さん。昨年10月には営業部を廃止し「職人」にならないかと希望を聞いた。結果、3人が職人の道を歩むことになった。また、新規で20~30代の若手を社員として採用、「職人」作業に従事している。今は、外部に委託している作業も、いずれ自社でやらざるを得なくなる。10人を目標に職人を自社で育てていこうとしている。
「会社が発展するかどうかは、すべて人です」と前原さん。「社員が会社の歯車だなんてナンセンス。会社を通じて人間性を発展させ、それが会社にもプラスになる。緩くて楽という意味ではない。それぞれが努力をして自らを磨いていける。そんな会社を目指している」という。まさに、傘という文字が人から成り立っている、ということを示そうとしているのだろう。
写真=湯澤 毅 Takeshi Yuzawa
Wedge7月号『新しい原点回帰』(58頁)で、「写真・高梨光司 Koji Takanashi」と表記しておりましたが、正しくは「写真・湯澤 毅 Takeshi Yuzawa」です。また、目次(6頁)下段のクレジットも「Koji Takanashi」ではなく、正しくは「Takeshi Yuzawa」です。訂正してお詫び申し上げます(編集部)。