2024年4月25日(木)

日本の漁業 こうすれば復活できる

2022年6月20日

不可解な水産内での予算配分

 他方、日本の水産に関する今年度及び昨年度補正予算3200億円のうち、漁港整備などに充当される水産公共予算は1134億円と予算全体の3分の1を上回っている(図3)。確かに公共事業は土木工事事業を通じて働き先の少ない地方の雇用を支える役割も果たしていようが、毎年漁獲量と漁業者が減り続け、漁村は寂れる一方で、漁港ばかりがきれいに整備されてゆく意味があるかは甚だ疑問と言わざるを得ない。

 この他に費目として大きな割合を占めるのが補正含め総額1019億円の漁業経営安定化対策であり、「資源管理計画」を作成・履行して資源管理に取り組む漁業者に対し不漁時の減収分を補填する事業などで構成されている。しかし、21年3月末現在で2866件ある「資源管理計画」で評価された2409件のうち、評価結果が「増加」となっているものは4分の1の648に過ぎず、「減少」と評価された644件のうち、計画の強化が求められず単に「継続」とされているものが511件と大半を占めるなど 、計画の実効性が十分に示されてはいない。

まずは水産予算の中で資源評価の拡充を

 漁港の整備に関しては、これによって経済的な恩恵を受ける事業者等の支持が強く、彼らの後押しが水産公共予算の増額となってあらわれている。同様に、経営安定化対策には漁業者団体からの強い要望を背景に多額の予算が充当されるが、水産資源評価には予算増に関して漁業者団体側からのサポートは必ずしも得られず、MSYにもとづく管理についてはむしろ敵対的な意見すら少なくない。

 しかし、わが国の水産業が発展してゆくためには、資源を持続可能に利用してゆく必要があり、資源の持続可能な利用を実現するベースとして、科学的な資源評価が欠かせない。そのためにも、資源評価に関する大幅な予算の増額が必要であろう。

 これを実現するのにトータルでの水産予算の積み増しをしなくとも、例えば水産公共予算の増額分の半分を回すだけで資源評価の予算は240億を上回り、増額分を全て振り向けると376億円となる。財源はあるではないか。

 増額分は資源評価自体に振り向けるのに加えて、評価の基盤となるデータ収集環境の改善にも手厚く充当するようにするべきであろう。神谷崇水産庁長官も語るように、現在紙ベースでデータ収集を行っているため、漁獲枠等の設定を「1年前に収集した古いデータを基にして作り、適用されるのはさらに1年後、と2年のギャップができてしまって」いる 。データ収集を電子ベースに切り替え、漁船や水揚げ地から直接電子的に送るようにすることで、より直近のデータを基にして資源評価を行うことができる。

 このため今年度には「スマート水産業水産事業」として補正を合わせて17億8400万円を充当し、主要な漁協・市場からの水揚げ情報を収集する体制を来年度までに400カ所以上で整備することが目指されている が、まだまだ絶対額が少ない。どの漁業者や事業者も手軽にスマホやタブレットなどデータを送ることができるよう、環境を整備する必要があるだろう。

更新し続ける過去最低漁獲量の歯止めが急務

 漁業法改正を受け20年9月に水産庁が策定・公表した「新たな資源管理の推進に向けたロードマップ」では、現在「TAC」と呼ばれる漁獲の総枠を国が定めて管理している魚種は8魚種のみであるところ、漁獲量ベースで8割をTACで管理し、改正漁業法に基づく新たな資源管理の推進によって30年度までに、2010年と同等、44万トンの水準までに漁獲量を回復させることが目標とされている。

 目標の10年の漁獲量自体、それまでの過去最低記録だが、残念ながら18年を除き毎年過去最低記録は更新され続け、22年6月、農水省は昨年の漁獲量が過去最低をさらに更新、319万1400トンに落ち込んだと発表している 。資源管理の推進は一刻を争う状況にある。そのための前提となる、資源評価・調査に対する思い切った増額が、今まさに必要とされている。

 
 『Wedge』2022年3月号で「魚も漁師も消えゆく日本 復活の方法はこれしかない」を特集しております。
 四方を海に囲まれ、好漁場にも恵まれた日本。かつては、世界に冠たる水産大国だった。しかし日本の食卓を彩った魚は不漁が相次いでいる。魚の資源量が減少し続けているからだ。2020年12月、70年ぶりに漁業法が改正され、日本の漁業は「持続可能」を目指すべく舵を切ったかに見える。だが、日本の海が抱える問題は多い。突破口はあるのか。
 特集はWedge Online Premiumにてご購入することができます。

   
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る