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2022年7月10日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

負の遺産は、戦前の日本への評価

 しかしながら、これらは反安倍勢力からは、いずれも〝罪〟とみなされた。

 外交・安全保障政策は、ナショナリズムの発露と映り、森友、加計問題などの一連のスキャンダル、国会答弁の不誠実さは国民の多くが眉をひそめた。

 米国の保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」で東アジア問題を専門とするブルース・クリングナー上級研究員は、安倍氏殺害のニュースを受けて、ネットのニュースサイト「DAILY SIGNAL」で、安倍政治の功罪を論じた。

 「憲法上の制約から限られていた日本の外交、安全保障上の役割を、先見の明をもって見直し、強化し、(日、米、豪、印による)クアッドの創設を提唱、その機能を広げた」というのがプラス。「負」の遺産としては、「戦前、戦中の朝鮮半島における日本の行動について、過小評価、謝罪は十分なされていると主張、ときに国家主義者とみられた」と指摘する。

 安倍政治の決算はほぼこれにつきるといっていいだろう。

信じがたい罵倒、中傷のすさまじさ

 安倍氏に対しては、現職中も退任後も、激しい批判、罵倒、さらには脅迫めいた言動まで相次いでいた。著名な政治学者による口を極めた非難は、数多くあるうちの一例だ。

 この人物は、2015年の安保法制に反対する集会で安倍氏に対して「お前は人間じゃない。叩ききってやりたい」と罵倒、批判をあおった。聞くに堪えない言葉は、知性ある学者とは思えないが、ご本人は、安倍氏が亡くなった後、これには頬かむり、「ご冥福をお祈りする。首相の事績は、事実に基づいて評価しなければならない」と平然とツイートした。

 遊説中に、安倍氏を含む3人の政治家の名を挙げて「この人たちが乗った飛行機が墜落したら、助かるのは国民だ」と品位を欠くジョークを飛ばしたタレントを持ち上げた党首もいた。批判を浴びるのは政治家の常とはいえ、常軌を逸したすさまじさだったことがわかるだろう。

 一方、8日の事件後は、逆にこうした「批判に対する批判」が勢いをもちはじめた。

 舌鋒鋭く政治、世相評論を展開する評論家はフェイスブックで、「なんでも安倍のせい。国会では何を言っても罪に問われないから、暗殺教唆まがいの誹謗、中傷をする」と反撃、安倍非難が事件の遠因になった可能性があるとにおわせた。

 こうした論戦に対してネット空間では賛否両論が展開され、エスカレートする気配をみせている。匿名性の強いSNSによる他者への誹謗、中傷は、政治家に対するだけでなく芸能人に対するケースで、被害者が自殺に追い込まれる深刻なケースが生じている。

 現時点で、ネット上の糾弾が犯人を凶行に駆り立てたという証拠はないが、今後の捜査で、こうしたことをうかがわせる事実が出た場合、反安倍勢力に対する反発はいよいよ高まるだろう。

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