2022年10月6日(木)

Wedge OPINION

2022年7月22日

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山口慎太郎 (やまぐち・しんたろう)

東京大学大学院経済学研究科 教授

1999年慶應義塾大学商学部卒業。2006年米ウィスコンシン大学マディソン校で経済学博士号を取得。加マクマスター大学准教授等を経て2019年より現職。『「家族の幸せ」の経済学』(光文社)で第41回サントリー学芸賞を受賞。

子育て支援は、社会全体に
どのような便益をもたらすか

 今後コロナ禍から脱却し、経済や従来生活の回復と歩調を合わせ、出産・子育て需要の背中を力強く後押しするために、われわれはどのような支援策を講じるべきであろうか。カギとなるのは、個人の主観に左右されない確かなエビデンスに基づく、少子化対策における「量」と「質」の充実である。

 「量」の充実とはつまり、子育て予算および給付規模の拡大である。17年の子ども・子育て支援に対する公的支出(対国内総生産〈GDP〉比)の国際比較では、経済協力開発機構(OECD)32カ国平均が2.34%に対し、日本は1.79%でわずか3分の2程度に過ぎず、トップのフランスと比べると半分以下だ。

 子育て支援に投じる予算を、国民1人当たりに対する「支出」と捉えてしまうと、今後の高齢人口増に伴う医療・介護費の増加に圧迫され、ますます先細ることになる。だが、出生数の増加は子育て世帯のみならず、将来にわたって社会全体に大きなベネフィットを生むことになる。労働生産人口が増えれば、全ての国民にとって不可欠な生活インフラの維持や、年金や医療・介護保険などの制度を支える担い手となる。また、いつの時代も新たな市場拡大、経済発展、技術革新を牽引するのは次世代の若者たちである。

 つまり、日本にとって少子化対策に予算を投じることは将来への「投資」と認識すべきである。国としてある程度の余裕がある時期にリターンが望める分野に予算を投じなければ、政府や国民が望む右肩上がりのGDPや国際競争力の向上は達成しえないだろう。

 高齢世帯が増え、若い世代を中心に「結婚をしない」「子どもを産まない」といった選択肢が尊重される現代の日本だからこそ、子育て支援の拡充によって直接的な利益を得られない人たちにも、その必要性や将来得られる便益について、ビジョンとともにしっかりと説明をした上で、税負担などの協力を求める必要がある。

 「年金制度は100年大丈夫」と語るだけでは説明責任を果たしているとは言えない。その制度を維持しているのは現役世代であり、次世代を含め、そういった人たちを支えていくことこそが自らの将来の生活安定につながるのだ、という納得感を醸成していくことが国や政治に求められている。

 さらにいえば、国民が広く便益を享受できる子ども・子育て支援において、その給付先世帯を所得制限などによって限定すべきではない。今年10月からは高所得者世帯(年収1200万円以上)に対する児童手当が廃止される予定だが、「もらえる人」と「もらえない人」の違いが、子育て世帯間での分断を深めるおそれがある。納税額が多い高所得者層も児童手当の対象とすることで、子育て支援策に対する支持を幅広く社会の中で得ることができる。

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