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2022年7月22日

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山口慎太郎 (やまぐち・しんたろう)

東京大学大学院経済学研究科 教授

1999年慶應義塾大学商学部卒業。2006年米ウィスコンシン大学マディソン校で経済学博士号を取得。加マクマスター大学准教授等を経て2019年より現職。『「家族の幸せ」の経済学』(光文社)で第41回サントリー学芸賞を受賞。

 少子化対策に対する予算と子育て世代全般に対する確かな給付を確保したうえで、次に重要となるのが「質」の充実、つまり、「予算(給付)を何(どの分野)に投じるべきか」という問題である。これまでの経済学研究を踏まえると、同規模の予算を投じた場合、手当や給付金といった直接的な「現金給付」よりも、保育所や幼稚園などの幼児教育やそれ以外の子育て支援サービスといった間接的な「現物給付」の方が、出生率の向上により効果をもたらす可能性が高い。

 「現金給付」と「現物給付」における費用対効果の差について、2つの理由から紐解くことができる。1つ目は「現金給付は教育コストの増に吸収されてしまう」という点だ。所得が増えて、子どもにかけられるお金の総額が増えた場合、子どもの数を増やすこともできる一方、当然ながら、子ども1人当たりに、より教育費を投じることもできる。特に塾通いや幼少期の受験など、若年期からの教育を重視する家庭が増えた現代日本においては、後者の教育の「質」向上を選びがちだ。

 2つ目は、「現金給付による所得の増加が必ずしも子育て負担を軽減するわけではない」という点だ。OECDのデータによれば、日本は女性就業率(25~54歳)が海外よりも高いにもかかわらず、母親就業率や男性の育児休暇取得率は低水準のまま、というアンバランスな結果が出ている(下図版参照)。つまり、日本における女性活躍、社会進出はある程度達成されたものの、いまだ幼児期をはじめとした育児全般を女性に頼る家庭が多く、結果、労働と育児の二重負担を強いられ、育児を理由に就業を諦める女性も多い。

日本の女性就業率が急上昇したにもかかわらず
子育て環境にある女性の就業率はいまだ低水準だ

(注)女性就業率(25歳~54歳)
(出所)OECD statistics(2022年5月3日時点) 写真を拡大
(注)母親就業率(末子年齢別、2019年)
(出所)OECD Family Database (2022年3月3日時点) 写真を拡大

 このような家庭においては金銭的な余裕よりも、時間的な余裕の不足により子育てや第2子以降の出産を諦めるケースが多いため、世帯所得を上げるよりもむしろ、保育所の整備やベビーシッターなどの支援サービス拡充など、子育てに対する実質的な負担感を減らすことが求められる。併せて、男性の育児休暇取得を促すなど、男性の子育て・家事への参加を後押しする施策も重要だ。

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