2024年11月22日(金)

教養としての中東情勢

2022年7月26日

 プーチン氏は頼みの綱とする中国から「腰の引けた支持」(専門家)しか取り付けられず、失望感を深めていたことから、ハメネイ師の支持はなおさら嬉しかったに違いない。同氏が今回、訪問で具体的にイラン側へ目論んだものは①戦略協定の締結、②「ユーラシア経済同盟」との自由貿易協定締結、③「上海協力機構」への正式加盟――などで、この線に沿っての協議が進んだもようだ。

「ドルのくびき」からの解放も協議

 プーチン大統領は特に、2国間貿易にドル決済ではなく、自国通貨を使用する新しい方法を設計していることを明らかにした。これはいわば「ドルのくびきからの解放」だ。

 国際間取引の基軸となってきた米ドルではなくロシアとイランの自国通貨で決済することにより、米欧の制裁の影響を排除しようという試みだ。ハメネイ師も米ドルが世界的な取引から徐々に排除されるべきとの考えを表明し、援護射撃した。

 首脳会談と並行して進められた協議としては、ロシア国営の天然ガス企業ガスプロムによるイランの石油・天然ガス開発契約問題がある。400億ドルに上る大型プロジェクトで、イラン核合意から米国が離脱して以来、ロシアによるイランの資源開発構想は停止状態にあった。

 またイランからのドローン(無人機)購入問題も議論されたとみられている。米紙はイランが攻撃用と偵察用のドローン300機を供与する準備を進めていると報道。ロシア兵の訓練も始められる予定で、ロシア代表団が6月に2回にわたってイランを訪問した。これについて米高官はロシアが「イランに助けを求めなければならないほど孤立している」と指摘している。

 しかし、ロシアとイランの同盟関係は短命に終わるのではないかとの根強い見方もある。米欧の同盟が民主主義などの理念を土台にしているのに対し、「独裁」と「イスラム」という体制の異なる2国には統一した理念はない。あるのは「反米」という旗印だけで、「世界の主流からつまはじきにされた者同士がくっついたにすぎない。長くは続かない」(専門家)という意見も多い。

 事実、安全保障問題に関して言えば、イスラエルを不倶戴天の敵とみなすイランと、親密な関係を維持するロシアとでは距離感がまるで違う。核開発についても、イラン核合意を支持するロシアと制限なき核開発を志向するイランとは基本的な考えが異なる。制裁下での石油売却についても、両国が売却先の奪い合いという競争関係にある。


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