2024年4月18日(木)

教養としての中東情勢

2022年7月26日

イラン「中東防空同盟」に危機感

 イランはアラブ世界がイスラエルとの関係を強化することに懸念を深めてきた。近年トランプ米前政権の主導で、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、モロッコがイスラエルと国交を樹立し、国交のあるアラブ諸国は過去に関係正常化を達成したエジプト、ヨルダンを加えて5カ国に増えた。

 特に今年3月、イスラエルでUAEらアラブ4カ国と米国のブリンケン国務長官らによる6カ国外相会議が開催され、具体的なイラン包囲網づくりが始まった。これにイランが「イスラエルとの関係を正常化するいかなる行為もパレスチナの人々の背中に刃物を突き刺すものだ」とパレスチナ問題に関連付けて反発した。

 しかも米紙によると、米国が3月、イランによるミサイルや無人機の開発に対抗するため、イスラエルとアラブ諸国の軍事トップとの秘密会合をエジプトで開催したが、イランはこれに神経をとがらせていた。とりわけ会合には、ペルシャ湾をはさんでイランを敵視するアラブの大国サウジアラビアも参加していたことがイランに衝撃を与えたようだ。

 イスラエルのガンツ国防相によると、イスラエルは米国の支援を受け、アラブ諸国との間で「中東防空同盟」の構築を開始しており、その中にはイランからの攻撃を瞬時に共有する通信システムなども含まれている。イスラエル紙は同国がすでに、イランによるイラクからの無人機攻撃を阻止することに成功したと伝えている。

 バイデン大統領が今月のサウジ訪問の際、湾岸協力会議(GCC)とアラブ3カ国の合同首脳会議に出席したのも、「中東防空同盟」の強化という裏の狙いがあったとみられている。バイデン政権は中国対応のため、中東に展開してきた軍事力をアジアに転換しつつあり、「中東防空同盟」という集団防衛体制が米軍の空白を埋める一助となることを期待している。

 イランはこの「中東防空同盟」が反イランに傾斜していることに深刻な危機感を抱いており、ウクライナ侵攻に承認を与えたのも、見返りとして、ロシアからレーダーや防空システムなどの最新兵器の供与を期待しているからに他ならない。中東を舞台にした離合集散は新たな対決の危機を生もうとしている。

   
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