2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2013年4月26日

 習近平はモスクワの大学における講演で、日中戦争で中国軍がソ連の援軍下で日本と戦ったエピソードを持ち出し、第二次大戦の戦勝国同士の歴史的連帯を呼びかけた。しかし、ロシア側の反応は冷ややかだった。

 今回の共同声明でも、中国側が求めた第二次大戦の歴史認識に関する文言をロシア側が受け入れなかったほか、主権や領土などの「核心的利益」を相互に堅持するという表現に関しても、ロシア語のテキストでは、12年の共同声明から、それまでの「根本的利益」(korennye interesy)という表現から「枢要な利益」(kliuchevye interesy)という一般的な表現に置き換えられている。中国に言質を与えない工夫だ。

 ロシア政府関係者によると、中国側から、尖閣問題と北方領土問題において対日共闘を何度も呼びかけられたが、ロシアはそれに応じず、日中関係に関しては今後も中立的な立場を維持していくという。

 05年から開始された中露合同軍事演習も、最近では様相が変化している。かつては中露の緊密ぶりを第三国へ政治的にアピールする「外向け」のものであったが、昨年4月に黄海で実施された海軍演習は、軍事能力を相互に把握する「内向き」の演習に転化した。ロシアからすれば伸長する中国海軍の実力を、中国はロシアが先行する対潜水艦作戦能力を相互に情報収集することが狙いであった。つまり、相手を知るための軍事演習なのである。

中国の歴史教科書に掲載されている中露国境地図 ~「ロシアが我が国の広大な領土を不法占拠している」と教育~
(出所)中国の中学校用教科書『入門 中国の歴史』をもとにウェッジ作成
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 それでもビジネスとしての実利的協力と、対米関係の切り札である戦略連携が途絶えることはない。中露関係は「離婚なき便宜的結婚」と呼ばれるように、中国と決別する選択肢はロシアには存在せず、毎年、首脳会談で相思相愛を相互確認しなければならないのである。

 最近、ロシアは安全保障面において中国への警戒感を強めており、もはやそれを隠そうとはしていない。その背景には、両国間の力関係の格差がある。中国の国内総生産(GDP)がロシアの4倍以上となり、ソ連時代の兄弟関係の立場が逆転し、上から目線の中国に対してロシアの心中は穏やかではない。

 中露国境を挟んだ人口格差に加えて、中国の教科書ではロシアが中国北部の領土を略奪したと記されており、将来的にロシア極東地域が中国の影響下に入ることをロシアも本気で懸念し始めている。プーチン自らも、中国からの移民を厳重に監視する意向を示すなど、対中懸念に言及するようになったため、筆者とモスクワで面談する軍関係者までも、かつては政治的タブーとされた中国脅威論を平然と語るようになっている。


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