2022年8月10日(水)

WEDGE REPORT

2013年4月26日

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兵頭慎治 (ひょうどう・しんじ)

防衛研究所米欧ロシア研究室長

1992年上智大学外国語学部ロシア語学科卒業、94年同大学大学院国際関係論専攻博士前期課程修了。在ロシア日本大使館政務担当専門調査員、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理)付内閣参事官補佐、青山学院大学大学院講師等を経て、2011年より現職。

ロシアが恐れる中国の核

 ロシアが中国を警戒する新たな要因として、北極進出の動きがある。1999年以降、中国の極地観測船「雪龍」がオホーツク海を経由して北極海へ向かうようになり、オホーツク海を「内海」とみなして軍事的な聖域とするロシア軍関係者の間に波紋が広がっている。そこで、極東地域でのロシアの軍事演習には、中国の海洋進出を意識したと思われるものが見られるようになっている。

 「北極海への抜け道」に抵抗するかのように、11年から冷戦終焉後初めて大規模な軍事演習がオホーツク海で実施された。昨年7月の演習では、「雪龍」が宗谷海峡からオホーツク海南部を通過するタイミングで、サハリン東岸から対艦ミサイルが発射されたため、中国公船のオホーツク海立ち入りを牽制する意図があったのではないかとの見方も浮上した(詳細は防衛研究所編『東アジア戦略概観2013』参照)。

 オホーツク海は、冷戦時代の「原子力潜水艦の聖域」に加えて、「北極海への抜け道防止」という、新たな戦略的価値が付与されつつある。今回「雪龍」は、千島列島北部のパラムシル島南部を抜けてオホーツク海から太平洋に抜けたが、もう一つの出入り口が北方領土付近となる。

 ロシア軍は、国後・択捉両島の駐屯地を整備し、対艦ミサイルの配備を計画するなど、軍近代化を着実に進展させており、オホーツク海の意義が強まれば北方領土の軍事的価値も相対的に高まり、今後の領土交渉にも影響を与えることになろう。

 中国による海洋進出の動きを受けて、昨年5月に大統領に復帰したプーチンは、北極・極東地域の海軍強化の方針を打ち出した。具体的には、20年までの装備予算のうち、約4分の1が海軍増強に充てられ、20年までに調達予定のボレイ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦8隻のうち、1番艦のユーリー・ドルゴルキーが本年1月に就役したほか、フランスから導入するミストラル級強襲揚陸艦も来年の配備が予定されている。

 しかし、ロシアが最も懸念するのは、自らの影響圏である北極海やオホーツク海への中国船の立ち入りではない。軍関係者によれば、最大の懸念は、中国の核戦力にあるという。

 両国の核戦力の格差が縮小することも問題であるが、ロシアにとって不可解な「核の先行不使用(no first use)」を掲げる中国の核政策そのものも疑念の対象となっている。中国には核使用の自己規程がなく、実際に使用する可能性があると疑っているのだ。中国海軍によるレーダー照射事案などを目撃するにつけ、不安は募る一方だ。ロシアが中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄して、中距離核を保有したいと繰り返すのは、こうした理由による。

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