2022年11月26日(土)

21世紀の安全保障論

2022年8月12日

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辰巳由紀 (たつみ・ゆき)

スティムソン・センター日本部長

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

 普段は、台湾へのサポートについては積極的に支持する共和党側も、ペロシ下院議長の訪台に対する反応は、意外と冷静である。訪台の決定を絶賛している保守系共和党議員もいることはいるが、大部分は「訪台の目的は何だったのか」「せっかく、米中の政府間レベルにおける対話の可能性が開かれていたのに、このタイミングで台湾に訪問することで、何を目指していたのか」「政権と丁寧な調整があってしかるべきだった」等々、批判的なな反応も多く漏れ聞こえてくるのが実情だ。

 「なんで米中関係が緊張しているこの時期に、中国を刺激するのが分かり切っている台湾訪問をわざわざしたのか」という「そもそも論」については、「今年で82歳という高齢でもあり、政界の第一線から身を引く日も近いのではないかと噂されるペロシ下院議長が、下院議長としての自分のレガシーを残すために決断した」という仰天の「ペロシの思い出作り説」から、「まだ訪台が正式に決定していないうちに、あまりにも強く中国が反発したため、引くに引けなくなった」というものまでさまざま。

 だが、今回の一件でより興味深いのは、共和党からも、身内の民主党からも、ペロシ下院議長の台湾訪問に対するバイデン政権の対応のまずさが結果として米中関係を更に緊張させただけではなく、中国が台湾に対してより圧力をかける言い訳を与えてしまった、という批判が出ている点である。

中国を逆なでした対応の数々

 前述のとおり、米国連邦議員訪台そのものは、三権分立の観点から、行政府が介入しないことが慣例であるだけでなく、2018年3月にトランプ政権期間中に成立した、米台の高官が相互訪問を認めた「台湾旅行法(Taiwan Travel Act)」により、米国内法でも認められている。ペロシ下院議長の訪台も例外ではない。

 しかし、これまでは、米政府の「一つの中国」政策との整合性を保つために、議員の訪台は直前まで公表しない、もしくは議員が台湾訪問を終えて台湾を出発した後に事後報告的に発表されることが大半であった。訪問の内容も詳細は公にされないなど、基本的には目立たないよう配慮することが実質的なワシントンの「お作法」であった。

 今回の場合、ペロシ下院議長の訪台について、訪台が公式発表される前に、記者からの質問に答える形であったとは言え、バイデン大統領が「今行うことは望ましくない、と軍が言っている」と発言してしまい、訪台が検討されていること、さらに、訪台をバイデン政権が必ずしも歓迎していないらしいことなどが明るみに出てしまった。

 さらに、バイデン大統領からの生煮え発言に呼応する形で、ペロシ下院議長は、国防省から、もし訪台を強行した場合「自分が乗っている飛行機が撃ち落されるリスクがある」と警告を受けたことを明らかにしてしまい、バイデン政権側とペロシ下院議長サイドの歩調の乱れが表面化してしまった。このような意見の食い違いが表面化したのが、バイデン大統領が習近平主席と電話会談した直後であったことも、タイミングとしては最悪だった。

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