米国のナンシー・ペロシ下院議長が8月2日、現職の連邦議会下院議長としては四半世紀ぶりに台湾を訪問した。滞在時間は約19時間と短いものだったが、この訪問以降、米中関係は冷戦後最悪と言っても過言ではない緊張関係に突入した。
8月4日に、崔天凯駐米中国大使がワシントン・ポスト紙電子版に「中国はなぜ、ペロシの台湾訪問に反対するのか」という抗議の論説を掲載したのは序の口。ペロシ下院議長が台北訪問を終えて台湾を出発した直後に中国政府は、台湾周辺でこれまでにない規模の統合軍事演習を行うことを発表した。
さらに、日米の安全保障研究者が懸念していた通り、当初発表されていた軍事演習が終了した後、直ちに、対潜戦などに焦点を置いた別の統合演習を新たに実施することが中国政府から発表されるなど、台湾海峡情勢は急速に悪化している。
議員の台湾への外遊は認められているが……
米国でも日本と同様に、連邦議会議員の外遊先の選択は、三権分立の観点から議員の選選択に任されており、行政府が介入しないのが慣例とされている。その証拠に今年4月には、ボブ・メネンデス上院外交委員長を筆頭にした議員団が台湾を電撃訪問し、メディアを賑わせたが、バイデン政権は特にこの訪問に対して表立った反応はしなかった。
ただ、そうは言っても、大統領に万が一のことがあった場合に、大統領職を継承する序列3番目の下院議長による訪台は、他の議員団訪台とは別次元である。特に、現職下院議長として四半世紀ぶりの訪問でもあり、政治的な重みはメガトン級だ。台湾に対する米国のサポートを表すだけにとどまらない。中国に対するメッセージも強烈である。
それほど重要な外遊である。ペロシ下院議長サイドが、バイデン政権側と綿密に調整した結果のものと考えるのが当然であろう。しかし、今回の訪台は、どうも様子が違う。