労働権については、政治的理由でのストライキ権を認めたり、企業に対しあらゆる形態の雇用不安を禁止するなど、労働者の権利を過剰に保護する内容となっている。そして社会保障、医療、教育等の社会的権利を広範に認めていることから、政府に対し持続不可能な財政負担を強いる根拠となる恐れがある。
目が覚め始めた国民たち
2019年10月に発生した反政府暴動を鎮静化するための対策として、新憲法制定へのプロセスが開始されたが、21年5月の制憲議会議員選挙で、与党の中道右派勢力は3分の1にも達することなく、中道左派と左派及びさまざまな利益を代表する反政府系無所属議員が支配する構成となった。
多様なグループから成る当時の反政府派議員はそれぞれの課題を憲法に盛り込むことを主張し、お互いの主張を相互に認め合ったであろうから、数多くの要求を盛り込んだクリスマスツリーのような憲法案になってしまったようである。公職経験の無い無所属議員も多く、法制度としての妥当性や整合性、法律用語について専門家による精査が行われたのか疑問であり、法律文書として詰めの甘い内容のように思える。
チリ国民は、このような過激な憲法案が採択される過程を見て、冷静さを取り戻しつつあるようである。ボリッチ大統領は、この憲法草案が承認されない場合、それは、現行憲法が支持されたのではなく、20年の国民投票結果に基づいて新憲法制定プロセスを継続するべきだと述べ、これに対し野党側は改めて国民の判断を仰ぐ必要があると主張し意見が対立しており、もはや不承認が前提となったかのような議論が始まっている。
チリ国内のいずれの世論調査でも新憲法への反対が賛成を10~20%上回っており、国民投票では否決される可能性が高いとされている。