欧米と同じ世界観を共有しつつ
日本は独自の役回りを果たせ
岸田文雄政権は、時代環境の変化に迅速に対応してきた。対露制裁の決断、G7としての結束に加わってきたことに加え、参議院議員選挙期間中にもかかわらずNATO首脳会合に駆けつけたことは英断だった。米中対立への対応を見ても、経済安全保障推進法を成立させ、今年中には国家安全保障戦略など基本文書を改訂する作業を続けている。来年はG7ホスト国でもある。先進国協調の輪の中に加わるだけでなく、ロシア・ウクライナ戦争によって厳しくなっているエネルギー・食糧問題、また人権問題、気候変動を議論し、対応をまとめ上げていくことで責任を果たしていくべきだ。
他方で、日本は欧米と同じ世界観を共有しつつも、独自の役回りを果たすべきことも多い。二つの例を挙げよう。
第一に経済外交だ。バイデン政権は、国内政治上の制約からトランプ前政権が脱退した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に復帰することはできず、昨年秋、窮余の一策としてインド太平洋経済枠組み(IPEF)を考案した。だが、今年に入ると、市場アクセスという参加国へのうまみがないわりには、米国の判断で参加国を絞り込み、自らの利益優先で話を進めていこうとしていることが明らかになっていく。5月のバイデン氏訪日の際に発表された内容を見ると、日本政府が懸命に米国の構想に修正を働きかけたことが推察できる。これはまさに、日本外交の面目躍如といったところだ。
第二が、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国との外交である。東南アジアは米国と中国との間でどちらにもくみしない対応を重ねている、とよく言われる。あながち間違ってもいないが、海洋国やベトナムなどは、中国に呑み込まれてしまうことへの警戒はもっている。
問題は、米国が、ときに価値観の観点から過度に口を出すわりに自らの戦略的利益にばかりこだわるとみられており、さして人気がないことにある。5月にワシントンにASEAN首脳を招待したが、遅きに失しただけでなく、公表された支援内容も中国と比べものにならないほど小さい。最近、欧州連合(EU)や英国もインド太平洋重視の姿勢を打ち出しているが、所詮は地域で果たし得る役割は限定的だ。
バイデン政権は、経済外交にせよ、アジア外交にせよ、稚拙なところをみせている。その背景には、国内経済に起因した事情もあれば、民主党政権特有の独り善がりなところもある。日本や豪州、アジア諸国にとって自由貿易の推進は死活的に重要な課題であり、トランプ政権期にTPPを米国抜きの環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)として巧みに存続させたように、今後はIPEFという空虚になりかねない枠組みに少なからず意味を与えていくことが日本の役割になってくる。
そして、日本はASEANや太平洋諸国への外交的な取り組みに一層本腰を入れるべきだろう。来年は日ASEAN友好協力50周年にあたり、政府は有識者会議も発足させた。ASEANの成長は著しく、これまでの半世紀のような「上から目線」の関係を一新し、インド太平洋のパートナーとして対等に付き合っていく必要がある。