重要なことは、各国のチャンスとなるようにインフラ整備や経済安全保障を進めていくことだ。経済発展や科学技術の振興、気候変動対策など、各国の重要な関心に応じたアプローチを取りながら、それを政治的価値観の広がりを支援することと結びつけていく。それが、米国とも中国とも異なる、日本の特色になるだろう。
日本の強みは、外交手段を駆使しても米中のように恐れられることがない、ということだ。それは国家規模の問題だけではなく、日本が長年にわたり、たとえばASEANの考えを尊重し、また太平洋諸国と向かい合ってきた蓄積の成果でもある。多くの調査報告に出ているように、米中以外で頼れる国として、日本はまだ真っ先に念頭に置かれている(下図)。その強みを生かし、インド太平洋が世界の分断の中に巻き込まれていかないように、積極的な外交を展開すべきだ。
ASEAN諸国に最も信頼されている
日本だからこそできる役割がある
最大の難題である中国外交
消極的な姿勢はあり得ない
中国外交は、日本にとって最大の難問である。科学技術や軍事力をめぐる米中の覇権争いの構図は当面続く。両国は軍事衝突を望んでいるわけではないが、自らがより早く成長を実現し、他国を強く惹きつける競争関係を解消しようとは思わないだろう。互いを牽制するだけでなく、舌戦も今以上に激しくなっていく。米国が自由主義的な国際秩序観を語るだけでなく、話語権(自国の議論や言説に含まれる概念、論理、価値観、イデオロギーによって生み出される影響力)を重視する中国もグローバル発展イニシアティブにみられるように、自らの言葉を捻出している。
日本はこれまで、隣国との関係を安定させ、経済社会における交流をできる限り広く確保しておくことを中国との関係で重視してきた。その趣旨は正しいが、関係の安定をことさらに重視したアプローチは今後、日本が尊重したいと思う価値観に則った国際秩序を守ろうとする考えや、さらに日本の安全保障と相反するところが強まってくるだろう。
それでも、たとえば人権を擁護するための国際ルールの徹底に日本が消極的な姿勢を取ることは、もはや市民感情としてもあり得ない。先進国の連携を実現していくためにも日本が中国に対して旗幟を鮮明にすることは不可欠であり、来年のG7ホスト国としても、議論を進めていく期待がある。すなわち、日本には中国との付き合いの中で、単なる関係安定化という目標を超えたところに新たな外交のバランス感覚が必要なのだ。
分断する世界の中で、自由や民主主義を基調に据えた国際秩序がカバーできる世界は縮小しかねない。しかし、そうした国際秩序なき世界が到来すれば、むき出しの力が跋扈し、グローバル化の土台が損なわれ、多くの人々が恐怖に苛まれて暮らすことにさえなってしまう。だからこそ、日本はビジョンを広げ、活発な外交を果たす必要がある。
凶弾に倒れた安倍晋三元首相は、首相在任中に「自由で開かれたインド太平洋」を語り続けた。惜しむらくは、「自由」な世界に向けて政府が一丸となって努力したとは言い切れないことだ。決して遅くはない。安倍氏からトーチを受け取った岸田首相は、何に恐れることなく力強くビジョンを語り、暗澹たる世界を明るく照らしてほしい。
コロナ禍を契機に社会のデジタルシフトが加速した。だが今や、その流れに取り残されつつあるのが行政だ。国の政策、デジタル庁、そして自治体のDXはどこに向かうべきか。デジタルが変える地域の未来。その具体的な〝絵〟を見せることが第一歩だ。