2024年11月22日(金)

ベストセラーで読むアメリカ

2022年8月28日

 デサントスの例はトランプがまだ大統領だった時の話ではある。しかし、リズ・チェイニーがトランプが後援する候補者に大敗した例をはじめ、最近は選挙におけるトランプ人気の健在ぶりを示す例が目立つ。本書の筆者もやはり、今年3月の時点で、トランプが影響力を持ち続けることを見通していた。

Personally, I wasn’t buying the “Trump’s hold on the GOP is weakening” proposition. Maybe it was a little, but it was hard to envision any Republican beating him if he ran in 2024, which Trump was sounding more and more certain of. “We did it twice and we’ll do it again,” Trump vowed at CPAC, where a life-sized cutout of his head superimposed over Rambo’s body was displayed and a five-volume collection of his tweets was on sale.

「『トランプの共和党内での影響力は弱まりつつある』という見方を、わたし個人はしていなかった。おそらく、少しはそうだったのだろうが、もしトランプが2024年に大統領選に出馬することにした場合、共和党のなかでトランプに勝てる候補の顔はなかなか思い浮かばなかった。トランプは次の大統領選に出るという雰囲気をますます強めていた。『二度あることは三度ある』と、トランプはCPAC(保守政治活動会議)の今年2月のイベントで誓った。イベント会場では、頭部をトランプにいれかえたランボーの等身大の人形が飾られ、トランプのツイッターでの発言集が全5巻の本になって販売されていた」

 いまだに、フロリダのトランプのもとを訪れ、トランプのご機嫌とりにいそしむ共和党の議員たちの滑稽な姿を本書で読むと、トランプの影響力の大きさがよくわかる。このままでは、24年のアメリカ大統領選に、トランプが共和党の候補として登場する可能性は高まるばかりに思える。それだけに、次の一節は説得力がある。

A former Republican congressman told me recently that the party's only real plan for dealing with Trump in 2024 involved a darkly intervention. “We’re just waiting for him to die,” he said. That was it, that was the plan. He was 100 percent serious.

「共和党のある元議員は先日、こう話していた。2024年にトランプを共和党の大統領候補にしないための唯一の現実的なプランは不幸の介入を待つというものだ。『彼が死ぬのを待つしかない』と言っていた。ただ、それだけ。これが対応策だというのだ。その元議員は真剣そのものだった」

もはや隷属と化する共和党の議員

 さて、冒頭にも記したように本書は、トランプに媚びへつらう共和党の大物たちの笑える言動を紹介する部分も、とても面白い。トランプ大統領の歓心を買うために、ワシントンDCにあるトランプ・インターナショナル・ホテルに入り浸る取り巻きたち。ウィリアム・バー司法長官にいたっては、個人的なパーティーを何百万円も私費で払ってトランプのホテルで開いたという。ちなみに、本書のタイトルそのものが、そうしたトランプの取り巻きたちへの侮辱をこめたメッセージになっている。

 本書のタイトルは Thank you for your service. という言葉をなぞらえたものだ。このもともとの言い回しは、主に兵役についた人に感謝の意を込めて使う言葉で「国のために貢献してくれてありがとう」という意味だ。兵役に限らず、国会議員をはじめ公的な職に就いているか、就いていた人に対しても使う。

 本書の題名は、serviceにかえて、「隷属」や「奴隷状態」を意味するservitudeを使っている。本来であれば国のために働くべきなのに、トランプをちやほやする共和党の議員たちに向かって「トランプの奴隷になってくれてありがとう」と皮肉を込め呼び掛けているのだ。

 本書はベストセラーリストのベスト10に2週連続で入った後は早くも圏外に姿を消してしまった。トランプ礼賛本でないと、やはり爆発的な売れ行きにはならないということかもしれない。

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