■今回の一冊■
Thank You for Your Servitude
筆者Mark Leibovich 出版 Penguin Press
選挙で勝つにはトランプのご機嫌をとるしかない。ワシントン政界のお粗末な現実を描くノンフィクションだ。
トランプが2017年に大統領に就任するや、トランプへの媚びへつらいに徹した共和党の議員たちや、ホワイトハウス高官たちの追従ぶりを事細かに描く。共和党の議員らトランプの取り巻きたちは今もなお、この前大統領の前に何故ひれ伏すのか。トランプ人気の秘密に迫る。
「ウイルスのようにしぶとい」影響力
本書の筆者は、ニューヨーク・タイムズなどで活躍してきたジャーナリストだ。トランプ前大統領をはじめ、共和党の有力議員らに会って見聞きしたエピソードが満載だ。
トランプを喜ばせるためならプライドを捨て、お世辞を連発する取り巻きたちの言動の数々には笑いが止まらない。一方で、こうした取り巻きがトランプの暴走を許し、共和党の良識派の議員たちも手の施しようがない現実も浮かび上がる。
大統領の座を去ってもなお続くトランプ人気のしぶとさを、不謹慎な比喩ではあるが、本書は次のように表現している。
What’s clear, though, is that even while relatively dormant, Trump remains the dominant figure of our political divide and at the orange-hot center of our culture wars. He still looms, like the pandemic, just as Trumpism perpetuates, like a virus.
「明らかに、トランプはやや活動を沈静化している時でも、米国の政治的な分断の象徴的な存在だ。そして、米国におけるカルチャー戦争の真っ只中に居座っている。トランプはいまだに不気味に迫ってきている。まるでパンデミックのようだ。同様に、トランプイズムもウィルスのようにしぶとい」
真面目なテーマを扱っているのに、面白い小話が満載で文章も軽妙だ。笑いが止まらなくて背筋が寒い良書だ。ニューヨーク・タイムズ紙の週間ベストセラーリストの単行本ノンフィクション部門で、8月7日付でトップにつけた。
本書はトランプに取り入ろうとする政治家たちの醜態だけでなく、トランプ批判に転じた共和党議員たちの苦境にも迫っている。「家族もろとも皆殺しにする」といった脅迫電話がかかってくるのは日常茶飯事だ。
せんだって、ワイオミング州の予備選で大敗した現職の下院議員のリズ・チェイニーも被害者のひとりとして本書に登場する。身の危険を感じたチェイニーは安全確保のために2021年の最初の3カ月で600万円を超える支出を余儀なくされたという。