2024年11月21日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年9月1日

国際社会の動きは響かない

 中央政府に問題があるため国連やNGOが乗り込んでいって国民に直接援助を実施する事も少なくないが、現在の暴力的なアフガニスタンでは、それも難しい。例えば、制裁下にあったイラクで国際援助機関は、小さな子供がいる家族に粉ミルクを直接配布したが、後で政府が缶を取り上げない様に、粉ミルクの缶を開封して配ったそうである。しかし、そういう小手先の問題では無いのが今のアフガニスタンである。

 そして、上記の社説も指摘している、カタールなどによる、女性の権利の保証等と絡めて「相互主義」で国際的な支援の段階的な復活という主張は、国際的な意味で「正論」ではあるが、果たしてタリバンに通じるのかどうか、悲観的にならざるを得ない。

 タリバンは巷間では、イスラム原理主義グループと理解されているが、実態は、アフガニスタンの人口の40%を占めるパシュトーン人の民族主義運動であり、内部はパシュトーン人の色々な部族や地縁単位のグループの集合体であると見るべきである。従って、国際社会がいくらアフガニスタン国民の苦境を救う必要性を訴えても、タリバンの心には響かないであろう。おそらく、タリバンにすれば、アフガニスタン国民の生活よりも、女性へのベールの強制や女子教育の禁止等、自分たちの信奉するパシュトーン・ワリと呼ばれる部族のしきたりを実現する方が重要だと思っているのではないか。

 なお、タリバンをイスラム原理主義者グループと呼ぶのに躊躇するのは、例えば、2001年にタリバンの前政権がバーミヤンの石仏を破壊した時に、本流のイスラム原理主義グループであるムスリム同胞団のイデオローグと言われるカラダウィ師が破壊を阻止するためにタリバンと協議したが、協議後、同師は、「彼らはイスラム教を知らない」と吐き捨てた、という事例があるからである。

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