「シンガポール」との決別探る岸田政権
岸田政権は発足以来、明言こそしなかったものの、シンガポール合意への決別に向けて、軌道修正を図ってきたふしがうかがえる。
首相は就任早々の2021年10月7日、プーチン大統領と電話協議の後、「北方4島の帰属問題を明らかにして平和条約を締結することが政府の基本的考えだ」と述べ、返還を求めるのは「4島」と言明。3月7日の参院予算委員会では、4島について「わが国固有の領土」「わが国が主権を有する領土」と明確に述べた。
林外相も1月31日、日本記者クラブでの会見で、領土交渉の対象について「4島の帰属問題」だと述べ、「東京宣言」、やはり4島の名が盛り込まれた2001年の「イルクーツク声明」に言及した。
現政権が2島返還の放擲(ほうてき)を意図していることは明らかだろう。
今、立ち戻らなければ、未来に禍根を残す
岸田首相は、生前の安倍元首相に配慮して、2島返還から4島返還への再転換を正式に表明することを避けていたのではないか。現時点でも安倍内閣の方針を撤回すれば、「亡くなったら手のひらを返した」と批判されるのを恐れているのかもしれない。
ことさら「破棄」などと明言する必要はないだろう。
私見ではあるが、「シンガポール合意なるものは、閣議決定などオーソライズされものではなく、正式には存在しない」「日本政府の方針は従来通り、4島返還だ」などとあらためて国会審議、記者会見の場で明言すれば角も立たない。故安倍元首相に礼を失することにもならないだろう。
政治に私情は禁物だ。いま「4島返還」に立ち戻らなければ、未来永劫、禍根を残すだろう。
岸田首相は蛮勇をもって決断してほしい。