あの挫折の先に

2013年5月27日

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夏目幸明 (なつめ・ゆきあき)

ジャーナリスト

1972年、愛知県生まれ。愛知県立豊橋工業高校から早稲田大学へ進学、卒業後、広告代理店に入社し、その後、雑誌記者へ。小学館『DIME』に『ヒット商品開発秘話 UN・DON・COM.』を、講談社『週刊現代』には、マネジメントの現場を描く『社長の風景』を連載。ほか、明治学院大学講師をつとめ就活生の支援を行う。『資格の学校TAC』では、就活生と一緒にエントリーシートを書き、面接練習を行う講座を持つ。
執筆記事:「社長の風景」(現代ビジネス)、「火力発電所奮闘記」(『VOICE』)、「ビジネスの筋トレ」(『フレッシャーズ』)、「就職活動セミナー」(『資格の学校TAC』)

亡き父が、最後に教えてくれたこと

祭壇イメージ。ある商店の経営者が亡くなったとき、あえて道路使用許可を取り、故人が最後まで気にかけていた商店の前を通って火葬場へ向かうなど、サプライズ的なサービスを行うことも。

 その後、彼の事業は葬儀業界を一変させた。単に価格を下げただけではない。彼が打ち出したコンセプトは『家族葬』。看病に疲れた家族が、故人とどんなご関係だったかわからない方に挨拶をし、来られる方の序列を気にし……では、故人をしのぶこともできない。それより、遺族が知っている範囲での葬儀なら、見栄をはる必要もなく、価格も抑えられる。それが『家族葬』の『ファミーユ』として定着を始めたのだ。事業のコンセプトを出し合った仲間は全国でフランチャイズ店を経営し、『ファミーユ』は、テレビや雑誌などでも新時代の葬儀として報じられ始めた。

 こうして実績が付いてきてようやく、徐々に周囲の理解が得られるようになった。

 「私が取引をやめた方たちも、今は通常のお付き合いができています。ただし、こうなるまでに10年くらいかかりましたが」

 いわゆる“落ち目”が訪れたとき、いち早くリスクをとって新時代に適応するか、それとも、情に流され、先細りになっていくか。多くの人は、渦中にいるとき、その分水嶺がわからない。そして「10年ひと昔」と言うとおり、10年経つと、どちらが正しかったのか、当事者たちも客観的に見られるようになるのだろう。

 最後に、彼は忘れられない思い出を語る。

髙見氏と、創業者でもある父。「父は地域で人間関係を築き、営業網を広げていくという、昔ながらの必勝モデルを持っている人でした。病院に1000日通い詰め、看護師さんにおみやげを持って行き、ご葬儀のご案内をいただく。そんな人物でした」と話す。

 「父の葬儀が、私にとってはまた、よい経験になったのです。父が1か月程度の闘病期間で亡くなり、私が喪主として葬儀をあげることになりました。このとき、私は、新しいやり方に付いて来てくれなかった社員たち――父がかわいがっていた社員たちに葬儀を任せたのです。私は効率化を進めていたのですが、その社員たちは、非常に立派な式をあげてくれました。そのとき以来、中途半端といわれるかもしれませんが、低価格化に特化した展開は避けようと思うようになったのです。故人をどう送り、納得のいくお別れをするかという「葬送の心」を大切にしようと考えたのは、このときから。最後に、父は身をもって大事なことを伝えてくれたのかもしれません」

(※文中敬称略)

[連載] あの挫折の先に

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