亡き父が、最後に教えてくれたこと
その後、彼の事業は葬儀業界を一変させた。単に価格を下げただけではない。彼が打ち出したコンセプトは『家族葬』。看病に疲れた家族が、故人とどんなご関係だったかわからない方に挨拶をし、来られる方の序列を気にし……では、故人をしのぶこともできない。それより、遺族が知っている範囲での葬儀なら、見栄をはる必要もなく、価格も抑えられる。それが『家族葬』の『ファミーユ』として定着を始めたのだ。事業のコンセプトを出し合った仲間は全国でフランチャイズ店を経営し、『ファミーユ』は、テレビや雑誌などでも新時代の葬儀として報じられ始めた。
こうして実績が付いてきてようやく、徐々に周囲の理解が得られるようになった。
「私が取引をやめた方たちも、今は通常のお付き合いができています。ただし、こうなるまでに10年くらいかかりましたが」
いわゆる“落ち目”が訪れたとき、いち早くリスクをとって新時代に適応するか、それとも、情に流され、先細りになっていくか。多くの人は、渦中にいるとき、その分水嶺がわからない。そして「10年ひと昔」と言うとおり、10年経つと、どちらが正しかったのか、当事者たちも客観的に見られるようになるのだろう。
最後に、彼は忘れられない思い出を語る。
「父の葬儀が、私にとってはまた、よい経験になったのです。父が1か月程度の闘病期間で亡くなり、私が喪主として葬儀をあげることになりました。このとき、私は、新しいやり方に付いて来てくれなかった社員たち――父がかわいがっていた社員たちに葬儀を任せたのです。私は効率化を進めていたのですが、その社員たちは、非常に立派な式をあげてくれました。そのとき以来、中途半端といわれるかもしれませんが、低価格化に特化した展開は避けようと思うようになったのです。故人をどう送り、納得のいくお別れをするかという「葬送の心」を大切にしようと考えたのは、このときから。最後に、父は身をもって大事なことを伝えてくれたのかもしれません」
(※文中敬称略)