2024年11月22日(金)

デジタル時代の経営・安全保障学

2022年9月29日

中国軍にとっての機雷戦の位置付け

 一方の中国では、機雷敷設戦をどのように考えているのだろうか。09年に米海軍大学中国海洋研究所から発刊された「中国の機雷戦(Chinese Mine Warfare)」には、「実際の中国の台湾への侵攻は、台湾の抵抗を硬化させず、死傷者と物理的損害を局限化する方策として機雷戦を計画している可能性が高い」との記述がある。

 台湾は、人口の98%が漢民族であり、中国もまた人口の91%が漢民族であることから、中国としても中国国内の世論にも配慮する必要があり、同一民族間での殺し合いは避けたい。また、物理的損害も台湾の価値を毀損することになり、弾道ミサイルによる攻撃や空爆は避けたいのが本音だとする見方をする人は多い。多くの台湾人の殺傷をするかもしれないミサイル集中攻撃よりも、殺傷を伴わない機雷敷設戦は、中国にとってもグレー・ゾーンの戦略として採用される可能性は高いのだ。

 したがって、中国は、台湾を兵糧攻めにするために台湾の主要な港を機雷戦の標的にする。中国による機雷戦は、第1段階として4日から6日以内に5000個から6000個の機雷が投入され、第2段階として7000個の機雷が投入されると、台湾軍は想定している。総計1万5000個以下の機雷で台湾は、国内外の海運を完全に遮断されるとみているのだ。

 日露戦争(1904〜05年)終結後の1907年に成立した機雷戦に関する唯一の国際法である「自動触発海底水雷の敷設に関する条約」、いわゆるハーグ条約では、第8条約で、係維(アンカーケーブル)から切り離された機雷缶(機雷本体)は、直ちに無害化されなければならない。浮遊機雷については「監理」を離れた後、1時間以内に無害とならないものは使用を禁止としている。

 ハーグ条が成立した頃の機雷は、触発機雷であり、触発機雷を前提にした規制となっているが、現在、主流となっている音響、水圧、磁気に反応する複数のセンサーを備えた非接触型の機雷は、対象ではないと解釈している国は多い。このため中国も、たとえ係維機雷であっても触発機雷でなければ、ハーグ条約第8条に違反しないと解釈している可能性が高い。したがって、中国軍が敷設した係維機雷のアンカーと機雷缶が何らかの原因で切断された場合、不活性化もしくは自爆装置によって自滅するのかは、疑わしい。

 さらに厄介なことは、中国の機雷に関する情報が、ほとんど開示されておらず、開発状況や在庫数は秘密にされていることだ。すでにさまざまな機雷が開発されていると思われるが、最大の脅威とみなされるのが核機雷である。

 通常爆薬よりもはるかに威力が大きい核機雷は、至近距離でなくても潜水艦に大きな損傷を与えることができ、敵潜水艦の位置や水中での精密な誘導を必要としないという特徴がある。中国が機雷戦を仕掛けた場合、米国の潜水艦を寄せつけないために、核機雷を敷設したとの情報を意図して流す可能性がある。


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