今、台湾情勢の緊張が続いている。そんな中、2022年8月6~7日、日本戦略研究フォーラム主催で、台湾危機に関するシミュレーションが行われた。
台湾周辺で危機が高まり、尖閣諸島へも武装した漁民などが上陸し、次第に台湾への攻撃が開始されるシナリオに基づいて、首相役、各大臣役の政治家が、どういった対応が可能なのか、検証していく取り組みだ。
首相役には、小野寺五典元防衛相がつき、各大臣役も現役の名だたる政治家であり、国家安全保障局長には元国家安全保障局にいた専門家が務めるなど、内部事情に詳しい人が行った検証である。そこから問題点を洗い出し、実際の危機において、日本の対応能力を高めることができ、大変有意義な取り組みであった。
筆者もオブザーバーとして入れてもらったので、その意義を感じ、勉強になったところが多い。その上でこのシミュレーションをさらにリアリティーを持たせるため、本稿では、筆者が感じた改善点として次の3つの点を指摘しておきたい。
意思ある人の意向をどう反映させるか
1点目は本シミュレーションでは、日本の民間人が協力するということがシナリオになかったことである。例えば、台湾有事が迫り、台湾にいる日本人、中国にいる日本人、沖縄の先島諸島や与那国島にいる日本人を避難させようとするときである。
日本の民間航空会社やフェリー会社などが、攻撃を受けるかもしれず、協力しないことが想定に入る。たしかに、これは問題としてしばしば指摘されている。しかし、危機になって、生命が危うい状況に陥った人がいるとき、本当に日本人は協力を拒否するだろうか。
例えば、第2次世界大戦初期にダンケルクで起きたことは、日本では起きないのだろうか。当時、フランスに派遣された何万人もの英国軍が、ドイツ軍に追い詰められ、海岸で皆殺しになろうとしていた。
その時、英国の民間人は自らの船を出して、助けに行ったのである。国が協力を求めて動いた船もあるが、自ら出ていった船もあった。
英国人だけではない。2020年に中国の襲撃を受けて、インド兵100人近くが死傷した時、インドでも起きた。貧しい子供たちが、国境地域に行って中国と戦う、といいはじめ、集団で家出をして、国境へ行ってしまったのだ。