2024年5月11日(土)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年9月30日

 ホテルに関しても同様であり、コロナ渦の期間の需要低迷を受けて、要員をカットしているホテルは、いきなり100%近い稼働は難しいかもしれない。飲食や運輸関連も同じである。相当な勢いで客足が戻ってくることが予想される中で、供給をどうやって確保するか、特に人材の確保は大きな課題になりそうだ。

 また、ホテルなどの設備投資に関しては、コロナ後を見越して外資が相当に入ってきている。このままでは、開国後にビジネスの美味しい部分を外資に持っていかれることが懸念される。

 リスク投資の苦手な日本であるが、ここまで事態が回復したのであるから、しっかり民族資本の投下を行って、これ以上成功の果実を奪われないようにしていただきたい。特に地銀の経営の傷んでいる地方が心配だ。

満足度向上と稼ぐ仕組みを

 2点目は価格設定の問題である。航空券やホテルは、国際的なマーケットの仕組みで価格は決まってくるが、問題は飲食店である。この2年半の空白期間の以前と、以降では訪日外国人の購買力には大きな違いが出てくることが予想されるからだ。

 まず、日本への憧れは増している。またコロナ禍で「海外旅行を我慢」していた反動として、従来比で予算を積み増してくる旅行者も多そうだ。更に、この間の大幅な円安は、欧米や一部アジア諸国の通貨で生活している旅行者の日本における購買力を掛け算式に拡大させている。

 そうなると、日本国内の飲食店も、外国人の強い購買力に合わせることで、また需要と供給のバランスも偏る中で、一部はかなり「強気の価格設定」をしてくることが想定される。例えばだが、米国ではラーメン一杯2800円が相場という報道に接すれば、日本のラーメン屋が外国人の需要を狙って一杯2500円は「少々やりすぎ」かもしれないが「1500円」ぐらいの値付けはする店も出てくるであろう。

 メニューに英語の表示をして、スパイシーとかベジタリアン、あるいはユダヤ教のコーシャ、イスラム教のハラルの対応をする代わりに、ラーメン一杯2000円というようなビジネスが横行するかもしれない。寿司や焼き鳥はパンデミック前に既にバブル化していたが、海鮮居酒屋や和定食なども世界の若者が飛びつきそうであり、そうなったら価格もバブル化することは容易に想像できる。

 勿論、これまで長いデフレ経済の中で、特に飲食業界の現場では低賃金の長時間労働が問題になってきていた。今回の「外国人旅行者による購買力持ち込み」で、そうした労働者の待遇が改善されるのであれば、これは喜ばしい動きではある。

 だが、そうした好循環が起こらないまま、外国人向けに多くの飲食店がバブル化して、国内の多くの消費者には手が届かなくなるようでは社会は暗くなってしまう。また、安易な儲け主義に走るようでは、舌の肥えたリピーター層には「バレて」しまいSNSでマイナス評価が拡散し、国自体が悪印象を持たれる危険もある。大きな需要と強力な購買力が押し寄せる中で、特に飲食に関する価格設定の動向には注意が必要だ。


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