2024年11月22日(金)

唐鎌大輔の経済情勢を読む視点

2022年10月7日

不安視される3つの論点

 こうした日本の過剰な防疫意識を脇に置いても、インバウンド需要の復活を期待するにあたって不安材料は少なくとも3つある。それは①最大の需要先であった中国からの来日が期待できないこと、②世界的に景気後退ムードにあること、③日本のインバウンド受け入れ体制が脆弱なことだ。

 このうち①と②は日本に帰責するものではなく、政策努力ではどうにもならない。周知の通り、①に関しては中国がゼロコロナ政策を解かない以上、日本のインバウンド需要にとって最大のお得意先である中国人の往来が復活するようには思えない。

 インバウンドがピークに達していた19年は年間で約3200万人、1 日あたり約 8.8 万人が日本を訪れていた。この 3200 万人のうち、約30%に相当する 959 万人が中国人であった。この部分は当面期待できない。

 しかし、①の制約は以前から指摘されていた点であり、想定の範囲内である。問題は②だ。年明け以降、岸田政権が非科学的な鎖国政策を続けてきた間、世界の経済・金融情勢は確実に悪化しており、当面改善する兆しがない。

 インバウンド需要、言い換えれば旅行収支(受取)は立派なサービスの「輸出」であり、外需環境に依存している。海外経済が停滞している時に日本から海外への財輸出が減少するのと同じで、海外から日本へ旅行に来る外国人も当然減少する(サービス輸出は減る)。

 自国で高インフレが起きて実質所得が目減りしている時に海外旅行で消費・投資意欲を発揮しようという話にはなりにくいのは想像に難くない。アジアおよび欧米における物価上昇と金融引き締め局面を前提とすれば、インバウンド需要もこれに伴って絞られてくるのではないか。

脆弱化しているインバウンド受け入れ体制

 これらは外的要因で制御が難しい話だが、③は内的要因である。20年以降のパンデミック局面を経て、日本の宿泊・外食産業は強烈な打撃を受けた。時短営業の要請(という名のほぼ強制)に象徴される公的介入が断続的に実施される産業から労働者は必然的に流出する。

 日銀短観(9月調査、図表②)を見ると、宿泊・飲食サービスの雇用人員判断DIが現状で▲47、先行き(3か月後)は▲53を記録している。全産業の現状が▲28、先行きが▲31であることと比較すると、人手不足の水準はもとより、先行きに対する悲観度合い(現状から先行きへの変化幅について宿泊・飲食サービスは▲6、全産業は▲3)も差が見受けられる。労働供給にかなり強い制約がかかっている実情が透け、インバウンド需要はおろか国内旅行の需要にどれだけ対応できるのかも心配される状況に見受けられる。

 また、仮に宿泊・飲食産業として盤石の受け入れ体制をここから整えたとしても、当該地域の住民感情と足並みが揃うのかという難題も残る。そもそもこれほど厳格な防疫政策を望んできたのは他ならぬ日本国民自身ということを忘れてはならない。


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