2024年4月20日(土)

唐鎌大輔の経済情勢を読む視点

2022年10月7日

立場を活かせず世界は不況へ

 まとめると、インバウンド需要は最大のお得意先である中国を欠いた上で海外経済の悪化も重なりそうな状況にある。その上で、いざ国内に外国人が入ってきた場合の受け入れ体制も整っているとは言いがたく、とりわけ労働者不足という早晩解決できそうにない問題を抱える。また、JTB総研のアンケートが示すように、仮に雇用者が充足され受け入れ体制が整っても、地域の住民感情と摩擦を起こす懸念は残る。

 本来、今の日本はもっとインバウンド需要(経常収支上ではサービス収支)の重要性がクローズアップされても良い。日本は交通インフラの利便性、自然や文化の豊かさなどが評価された結果、「世界経済フォーラム」(ダボス会議)が2年に1度公表する「旅行・観光開発指数レポート(2021年)」で調査開始以来、初めて1位を獲得している。国際的にみて、日本への観光需要が非常に根強いことは間違いないのだろう。

 にもかかわらず、実際に日本を訪れたらマスク着用に象徴される厳しい感染対策を強要され、人手不足のホテルに泊まり、地域からは歓迎されなかったとなれば、陰に陽にその評判は世界に浸透するだろう。世界から日本に対する評価が高いうちにインバウンド需要を抱え込む努力に尽くすべきである。

 最後に、インバウンド需要は長期目線で少しずつ育てていくものであって、即効性を期待するものではないことも付記したい。訪日外国人消費額はピークだった19年時点でも約4.8兆円と名目国内総生産(GDP)比で約0.9%にとどまっていた(図表③)。

 21年はこれが1210億円まで落ち込んでいる。今後の予想は非常に難しいが、まずは23年いっぱいに向けてピーク時の3分の1弱である1000万人まで戻すとすれば、訪日外国人消費額は約1.5兆円程度だろうか。それでも名目GDP比で約0.3%である。もちろん、実質実効為替レートが半世紀ぶりの円安なので1人当たり消費額は増えるかもしれないが、景気全体を押し上げるほどの存在感には至らないだろう。

 円安それ自体は市場からの評価であり、その善悪を議論しても本質的に意味はない。それが日本の実力に見合ったカードとして配られた以上、それを活かす道を探ることが建設的である。

 この点、インバウンド需要の復活という外圧とともに、過去2年半続いた日本のパンデミック局面に幕引きを図って欲しいと思う。インバウンド需要が成長率をどれほど押し上げるかという直接的な影響よりも、それが日本人の閉塞的な心理をどれほど変えてくれるかという間接的な影響を期待したい。

(記事はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

 
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