2024年11月24日(日)

唐鎌大輔の経済情勢を読む視点

2022年10月7日

 足許で岸田政権の支持率が低迷しているのは国葬や統一教会関連の対応が理由であって、厳格な防疫政策が成長率を貶めたからではない。むしろそれらの政策は好意的に見られている節もあり、それは政治が屋外でマスクを外すように促しても殆どの国民が外そうとしない現状がよく示している。

 振り返ればパンデミック当初、国内でも県境を越えた時に県外ナンバーの自動車や旅行客をあからさまに差別する行為が問題視されたことがあった。重症化リスクを抱える高齢者が相対的に多い地域ほどこうした挙動に出る可能性は高く、仮に外国人が入国し、観光で周遊するとして、果たして摩擦なく旅行できるのか不安はある。

感染防止とワクチンへの理解も影響

 万一、人種差別と見なされるような大きなトラブルに発展した場合、SNSなどを通じて瞬時に世界に拡散されてしまう。たださえ非科学的な水際対策によって閉鎖的イメージが抱かれているところに具体的な裏付けを与える格好になる。円安を活かす道がインバウンド需要くらいしかないと言われている中で、こうしたレピュテーションリスク(悪評や風評の拡大によって、組織の運営に支障が出る危険性)は不可逆的なダメージになりかねない。

 この点、22年3月にJTB総研が実施した調査『新型コロナウイルス感染拡大の影響とアンケート調査からみる旅行者の意識と行動の変化』が参考になる。同調査の中では「旅行者を受け入れることについて」の質問が行われており、特にインバウンド需要と密接に関係する「海外からの旅行者」については「来てほしくない」との回答が32.6%で最多であり、これに次いで「出来れば来てほしくない」の24.3%が続き、合計で56.9%にのぼる。これほど世界の観光需要が回復している状況でも6割弱が海外からの旅行者を歓迎しない状態にある。なお、「歓迎したい」は最少の11%、「来てほしいが、不安はある」が24.1%だ。

 ちなみに、海外からの旅行者であっても「ワクチンの接種証明書を持っていればどうか」という質問もされており、この場合は「来てほしくない」と「出来れば来てほしくない」の合計が47.5%まで低下する一方、「歓迎したい」と「来てほしいが、不安はある」の合計が45.1%まで上昇する。ワクチン接種済証明書を前提にしてやっと賛否が拮抗するイメージになるが、接種証明書の提示を条件に商売するホテルや飲食店が多数派になるのだろうか。逆に接種証明書がない場合はサービスの提供を拒むのだろうか。

 入国前72時間以内の陰性証明があればワクチン3回接種していなくても入国は可能なのだから、「接種証明書がない」というだけで外国人を拒む行為は問題に発展するリスクを孕むように思える。そもそもワクチンは感染防止を約束するものではないはずだが、このあたりの適切な理解も浸透していないのも気になる。


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