新型コロナウイルスにどう向き合うのか? というのは各政府に大きな課題を突き付けた。国民性、医療体制、経済状況などを加味して各政府が防疫対策を進めていかなければならない。そんな中、ゼロコロナ継続なのか? ウィズコロナに変えるのか? で苦しい判断を迫られたのが香港政府だ。
2022年7月に新行政長官へ就任した警察出身の李家超(ジョン・リー)氏が中国政府のゼロコロナを推進したい思いもあったが、経済が回らなくなっては香港経済が持たないと財界からの圧力を受け、9月26日から外国からの入境者に義務化していた隔離の廃止を決定するなど、ウィズコロナへのシフトが鮮明になった。
財界の声に押され、ゼロコロナ断念
香港は03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の経験を活かし、新型コロナに対する厳しい入境制限、ワクチンの早期確保などで、アルファ株、ベータ株、デルタ株において世界と比べて感染者を抑えることに成功した。
その後、欧米でワクチンの接種が始まり、世界は2021年夏ごろからウィズコロナにシフトし始めた。一方、香港はSARSのトラウマと中国のゼロコロナ政策に合わせて厳しい防疫対策をつづけた。
ところが、21年終盤に登場したオミクロン株は香港の状況を変えた。従来株とくらべて感染力が高く、ブレイクスルー感染も引き起こしやすいオミクロン株は、それまで感染者を抑えていた反動もあり、新規陽性者が一気に増加。陽性者は10月10日現在で180万人と人口の25%近くとなった。ちなみに日本は同日現在、国内累計陽性者が約2155万人で人口の約18%となっている。
その反面、オミクロン株は重症化しにくいこと、経済を回す必要性、香港市民も旅行にいけず事実上3年間缶詰め状態であったことから、もうそろそろウィズコロナにシフトしたほうがいいのではという雰囲気が22年2月終わりぐらいから漂い始めた。さすがに市民の我慢も限界がきていた。
香港は今でも世界で有数の金融都市とされ、物流のハブの機能は大きく失われていない。国安法が制定されたからといって、今の香港が一気に中国化していない。香港経済界にとって中国とのビジネスはもちろん大事だが、世界との繋がりがなくなればそもそも香港の存在意義がなくなる。財界の人間はそれをよくわかっていた。