2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年11月3日

 ザンガーの論説は、特に注目すべき点として、ロシアは当面の国際秩序に対する脅威であり封じ込める必要はあるとしても、長期的には、台頭する中国との競争が最重要課題である点を明確にしたこと、内政と外交を一体としてとらえ、米国の力の源泉は民主主義であるとして当面の問題を「独裁国家対民主国家の闘争」と位置付けるバイデンの持論を再確認し国内においても民主主義のルールを守るべきことを強調したこと、中国と対抗する上で半導体等を始めとする先端産業への国内投資の促進を図ること等を挙げている。

スピード感ある具体策がカギ

 戦略文書で、突出しているのは、軍事面、技術面での中国への対応であり、宇宙、サイバー、及び海上戦力での対抗を強調すると共に、先端技術に関する貿易・投資面での中国への規制によって技術的優位を確保しようとする。これについては、現在のバイデン政権の予算や施策では、中国の勢力拡大のペースに追いつけないとの批判がなされている。

 この戦略文書は、課題を的確に指摘し理想的な目標を掲げているが、そのための対応や具体的な施策に説得力を欠くとの印象を与える。日本との関係では、今回の国家安全保障戦略で台湾海峡の一方的な現状変更を許さないことや、初めて尖閣諸島が日米安全保障条約の対象となることが明記されたことは良いが、前述の通り海軍力で既に米国は中国に劣勢であるとの見方がある。

 また、論説が指摘するように、米国内に計画された半導体生産の新工場が稼働しても、これは米国が必要とするごく一部を供給することに過ぎない。NATO、日米豪印による枠組み「QUAD(クアッド)、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」など民主主義国との協力関係は強化されているが、東南アジア諸国連合(ASEAN)は分裂気味であり、中南米における米国の影響力の低下は顕著である。

 重要なのは、バイデン政権がこの戦略を実行する具体策をスピード感をもって進めることであり、バイデン自身がこの戦略に従った行動をとることであろう。

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