2022年12月9日(金)

2024年米大統領選挙への道

2022年10月21日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授 心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08年~10年、12年~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年米大統領選挙で研究の一環として日本人で初めてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。激戦州南部バージニア州などで4200軒の戸別訪問を実施。10年、14年及び18年中間選挙において米下院外交委員会に所属するコノリー議員の選挙運動に加わる。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。中西部オハイオ州、ミシガン州並びに東部ペンシルべニア州など11州で3300軒の戸別訪問を行う。20年民主党大統領候補指名争いではバイデン・サンダース両陣営で戸別訪問を実施。南部サウスカロライナ州などで黒人の多い地域を回る。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など多数。

 今回のテーマは「米中間選挙終盤戦とオクトーバーサプライズ」である。米国では大統領選挙の1カ月前に起こる、選挙結果に影響を及ぼす驚くべき出来事を「オクトーバーサプライズ(10月の驚き)」と呼んでいる。12年米大統領選挙では、東部ニュージャージー州およびニューヨーク州を襲ったハリケーン・サンディが、バラク・オバマ候補(当時)の再選に有利に働き、オクトーバーサプライズと呼ばれた。

 11月8日の中間選挙においても、全米の注目を集めている激戦州南部ジョージアの連邦議会上院選で、オクトーバーサプライズが起こった。どのようなオクトーバーサプライズが、ジョージア州で発生したのか。なぜ、与党民主党と野党共和党は他州を上回る選挙資金を同州につぎ込むのか。そして選挙結果の行方は――。

疑惑の渦中にあるウォーカー候補(AP/AFLO)

共和党反中絶候補の疑惑

 ジョージア州連邦議会上院選では、現職のラファエル・ワーノック候補と、ドナルド・トランプ前大統領推薦の新人ハーシェル・ウォーカー候補が接戦を繰り広げている。2人の黒人候補は、人工妊娠中絶の権利を巡り議論を戦わせている。ところが10月に入ると、元アメリカンフットボール選手で反中絶候補のウォーカー候補が、元交際相手に中絶を促し、その費用を支払っていた疑惑が浮上した。オクトーバーサプライズである。

 米紙ワシントン・ポストによれば、ウォーカー候補が元交際相手の中絶手術の費用として送った著名入りの700ドル(約10万円)の小切手と、見舞いのカードが見つかったという。中絶の手術は575ドル(約8万4000円)かかったことも分かっている。

 この件に関して、ウォーカー候補は疑惑を全面否定したが、息子のクリスチャン・ウォーカー氏は、自身のツイッターに「お母さんと僕は、お父さんのハーシェル・ウォーカーがウソをつくのを止めたら、本当に感謝する」と投稿した。

 そこで、共和党はトム・コットン上院議員(南部アーカンソー州)と、共和党全国上院委員会議長のリック・スコット上院議員(南部フロリダ州)といった大物議員をジョージア州に送り込み、ダメージコントールを図った。共和党にはウォーカー候補の中絶疑惑が、他州の選挙戦に多大な影響を及ぼさないように、ジョージア州内で止めておきたい意図があったのは確かだ。

 6月に米連邦最高裁が人工妊娠中絶の権利を約50年ぶりに覆して以来、中絶の権利は中間選挙の主要争点に浮上した。権利は与えられるよりも奪われる方が、怒りははるかに大きい。ジョージア州での大物議員のウォーカー候補応援は、裏返せば共和党の危機感と焦りの現れと言える。

なぜジョージア州なのか?

 2020年米大統領選挙において、ジョー・バイデン候補はジョージア州で、トランプ候補(共に当時)を、わずか1万1779票差で破り、選挙人16 を獲得した。共和党が圧倒的に強い「赤い州」ジョージア州でのバイデン勝利が、前回の大統領選挙でゲーム・チェンジャーになった。同州は、次の大統領選挙でも鍵を握る激戦州の1つになることは間違いない。

 米NBCニュース(10月16日放送)によれば、民主・共和両党は、ジョージア州連邦議会上院選で政治広告に、約1億4000万ドル(約200億円)を費やした。両党は、激戦州東部ペンシルべニアや西部アリゾナよりも多くの政治広告費をジョージアにつぎこんだ。

 ちなみに、米公共ラジオ(20年10月13日放送)によると、同年米大統領選挙でトランプ陣営とバイデン陣営は支持団体を含めると、合計2860万ドル(約42億8000万円)をジョージア州の政治広告に費やした。ということは、民主・共和両党は今回の同州連邦議会上院選で、20年米大統領選挙の4.5倍以上の資金を政治広告に使用していることになる。

 ではなぜ民主・共和両党は、ジョージア州に大量の政治資金をつぎ込む必要があるのか。現在、米連邦上院議席数は、定員100に対して民主・共和50対50で拮抗している。東部ペンシルべニア州では、同州副知事のジョン・フェッターマン候補が、トランプ氏推薦のトルコ系米国人元医師メフメット・オズ候補をリードしている。民主党はペンシルべニア州で勝利すれば、1議席増加し、51議席になる。

 しかし、西部ネバダ州では、現職のキャセリン・コルテスマスト候補がトランプ氏推薦の同州元司法長官アダム・ラクサール候補にリードを許している。仮に民主党がネバダ州を落とすと、議席増はゼロになってしまう。そこで、民主党にとってジョージア州は「絶対に落とせない州」になった訳である。

 民主党が上院議長を兼務するカマラ・ハリス副大統領の1票を加えて、上院で多数派を維持するには最低50議席が必要になる。現職のワーノック候補が議席を守れば、50議席を確保できる可能性が高まる。

 逆に、ウォーカー候補がジョージア州で勝利を収めれば、上院で共和党が多数派を奪還する公算が高まる。ゆえに、民主・共和両党は、大量の選挙資金を同州に投入しているのである。

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