今回のテーマは「なぜトランプは機密情報を持ち出したのか」である。ドナルド・トランプ前米大統領が機密情報を不適切に扱った問題は、新たな局面を迎えた。トランプ氏と弁護団は、米連邦捜査局(FBI)が押収した約1万1000点以上の公文書を精査する「特別管理者」の任命を求めていたが、その要求が南部フロリダ州南部地区連邦地裁によって許可された。
特別管理者任命の狙いは何か。また、トランプ氏がホワイトハウスから機密情報を持ち出した本当の理由はどこにあるのか――。
「特別管理者」任命の狙い
米司法省は特別管理者の任命に反対を表明したが、フロリダ州の地裁判事アイリーン・キャノン氏は、トランプ氏と弁護団の要求を認めた。一般に民間人が公文書を自宅に持ち出せば、特別管理人の任命は許可されず、おそらく起訴されるだろう。キャノン判事は同じ民間人であるトランプ氏を特別扱いしていると、批判の声が出ている。キャノン判事はトランプ大統領(当時)に任命された判事である。
米調査機関ピュー・リサーチ・センターによれば、トランプ氏は大統領職在任中の4年間で、226人の判事を任命した。そのアドバンテージをとって、対策を講じているのだ。ちなみに、バラク・オバマ元大統領は8年間で、320人の判事を任命した。
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は、キャノン判事が特別管理者
トランプ側の狙いは、FBIの捜査を遅らせて時間を稼ぎ、連邦判事と特別管理者を味方につけて、FBIから主導権を奪うことだろう。一歩踏み込んで言えば、特別管理者の任命は、FBIの捜査に対する「妨害行為」なのである。
「私のものだ」
雑誌エコノミストと調査会社ユーゴヴの全米を対象にした共同世論調査(22年9月10~13日実施)によると、トランプ氏の機密情報の扱いについて、39%が「適切に扱った」、62%が「不適切に扱った」と回答し、「不適切な扱い」が23ポイント上回った。トランプ前大統領の機密情報持ち出しに関しては、69%が「深刻な問題である」、31%が「深刻な問題ではない」と答え、「深刻な問題」が38ポイントもリードした。さらに、同調査では44%がトランプ氏は「罪に問われるべきである」、39%が「罪に問われるべきではない」と答え、「罪に問われるべき」が5ポイント高い。
つまり米国民は、トランプ前大統領は機密情報を不適切に扱うという深刻な問題を引き起こし、罪に問われるべきであると捉えているのである。
にもかかわらず、トランプ氏と米国民の認識の溝は深いようだ。米紙ワシントン・ポストの記者キャロル・レニング氏は、トランプ氏は持ち出した公文書の引き渡しに抵抗した際、政府の所有物ではなく「私のものだ」と、側近に語ったと報じた。米国および同盟国の国家安全保障を揺るがす可能性を含んでいるという認識に欠けていると言わざると得ない。