2024年11月24日(日)

天才たちの雑談

2022年11月17日

やはりアインシュタインは
あまりに天才すぎる

瀧口 ダークマターと似た用語ですが、「ダークエネルギー」とはどういうものなのでしょうか。

戸谷 こちらは2000年頃から議論され始めた、比較的新しい謎ですね。アインシュタインの相対性理論を踏まえて考えると、宇宙の膨張は、宇宙に重力源である物質が詰まっていますから、その引力でだんだん減速していくはずです。ところが精密に観測してみると、減速していた宇宙の膨張は、どうも今の時代に加速に転じつつあるようなのです。

 その加速を説明できる理論は、今の人類が持っている物理法則には存在しません。アインシュタインの方程式に「宇宙定数」と呼ばれる数学的な定数を一つ入れるとうまく説明できるのですが、ではこの定数は何なのか、どういう意味なのかは全く分からない。なので、われわれはこの宇宙の膨張を加速させる未知のエネルギーを「ダークエネルギー」と呼んでいます。

中須賀 これまで減速していたのに、加速に転じたとはとても不思議です。

戸谷 はい、とても不自然なのです。ちょうどわれわれが生きているこの時代に、ちょうどアインシュタインの宇宙定数が効果を持ち始めて、減速から加速に転じた。138億年の宇宙の長い歴史の中で、こうした非常に重要なタイミングに、たまたまわれわれが居合わせる必然性は全くありません。

加藤 今の時代にもう一人、アインシュタインがいたらこの謎を解いてくれたかもしれませんね(笑)。アインシュタインって天才すぎますよね。今の物理法則って、ほぼ全てアインシュタインが考えたもので説明がついてしまうのですから。

中須賀 最後の補正項である宇宙定数すら、アインシュタインが考えたわけですもんね。

戸谷 最近流行りの「重力波」も、アインシュタインの相対性理論で予想されていたものです。われわれは彼が相対性理論を発表してから100年がたっても、「彼の法則は正しい」ということをずっと確認し続けている。ちょっと情けないですね(笑)。

瀧口 逆に、アインシュタインの相対性理論に限界はないのでしょうか。

戸谷 それがまさにダークエネルギーかもしれません。その正体はよく分かりませんが、とにかくアインシュタインの方程式に変な定数を入れないと説明できない。ただ、その値はとても不自然なので、そもそもアインシュタインの相対性理論は宇宙全体に適用するには、どこかが不十分なのかもしれない。なので、ダークマターを説明するためにニュートンの重力理論を変えようとしたのと同じように、ダークエネルギーを説明するためにアインシュタインの相対性理論も拡張する、あるいはもっと高度な理論に変えようといった試みもされています。ダークエネルギーこそがアインシュタインの「次」への突破口かもしれません。

 面白いことに、アインシュタインは考案した宇宙定数を一度、自分で否定しているのです。当時はまだ観測手段がなかったので、アインシュタインは当初、宇宙が膨張していることを知らなかった。しかし自らが作ったアインシュタイン方程式では宇宙が膨張してしまう。アインシュタインは「宇宙が膨張しているわけない。静止しているはずだ」として、静止させるために宇宙定数を入れたのです。

 ハッブル宇宙望遠鏡の語源になった天文学者ハッブルが、そのわずか数年後に、宇宙は膨張していることと発見してしまいました。アインシュタインは「宇宙定数を強引に入れたことは、自分の生涯で最大の過ちだった」と語っています。ところが21世紀になって、精密な観測をしてみると、やはりアインシュタインの宇宙定数を入れないと辻褄が合わない、という話になってきたのです。やはり、アインシュタインはすごい(笑)。

加藤 逆に現代は、数学者とか物理学者にとっては一発当てるチャンスかもしれませんね。少なくとも相対性理論で説明しにくいことが現実的に観測されているわけですから、ここで証明できれば……。

戸谷 全てアインシュタインの法則で説明できてしまうと、われわれの仕事はなくなってしまいますから(笑)。謎だ、矛盾だぞ、というところに挑み、明らかにしていきたいです。


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