英語を使うビジネスの現場とは?
一方、英語を使うビジネスの現場ではどうだろうか。私はクロスボーダーM&Aのアドバイザリー業務をおこなっているので、英語を日常的に使用する環境にあるのだが、そこで必要とされるスキルは以下のようなものである。読者の中には海外で勤務中の駐在員もいらっしゃるかもしれないが、以下のスキルセットに関しては、海外での業務に必要なものと同意していただけるのではないだろうか。
【話す・聞く】
- 様々な会議や取引先との交渉の場において司会進行ができる
- 会議参加者の間で意見の相違がある場合は、その差異が生じる原因を明らかにし、妥協案を提示し、目指すゴールに向けて意見の集約ができる
- 人事評定面談やセクハラ相談などのセンシティブな内容も対応ができる
- パーティの席において話題豊富に歓談ができる
【書く・読む】
- 様々な会議における議事録の作成ができる
- 趣意書や覚書のようなシンプルなビジネス文書のドラフトが書ける
- 非常に長文の契約書であっても、過去の類似契約書からのコピペと新たな加筆でドラフトを作成することができる
- 弁護士が作成した契約書を読んで自らの利益を必ずしも代弁していない箇所の指摘ができ、あるべき表現に変更ができる
そもそも英語を使う状況とはどんな時であろうか? それは日本語の文化圏にない相手とコミュニケーションをして、何らかの目的を果たさなくてはならない時だ。海外でビジネスを行うことはその典型である。日本人であれば当然理解できるコミュニケーション上の文脈や、「読むべき空気」を理解してくれない。そんな相手に対して、自分の意図を伝え、目的を達成するためのツールが英語(外国語)なのだ。
実際、海外でビジネスをする際に必要となる能力のウエイトは、話す=聞く>書く>読むという順序である。しかし、中学・高校・大学の10年間において、「自分の意図をなんとか英語で相手に伝えて目的を果たす」、というトレーニングをする機会はほとんどない。入試には合格できても、ビジネスの現場では使い物にならない2つ目の理由がここにあるのである。
日本語のトレーニングをしているか?
しかし、上記のスキルセットを今一度眺めてほしい。そしてあなたはこれらを日本語でできますか? と問いたい。錯綜する会議を一定方向に収束させ、かつその様子を第三者にも分かるように議事録に残すというのは、非常に高度な日本語スキルを要する。弁護士の作成した文章を添削すると言うのも難易度が高い。このようなビジネスシーンはもちろんだが、実は、不動産購入や金融機関における借入れなどの日常の法律行為にも相応の日本語能力が必要なのである。われわれは、当然日本語は使いこなせると思っているが、ビジネスや法律行為を含む社会生活に必要十分な日本語のトレーニングをしてきているであろうか?