EVシフトで減る雇用と増える中国製依存の部品と原料
ICE車との比較で部品数が少ないEVは自動車部品と製造に係る雇用が減少する。米フォードは、数年前まで雇用は3割減少するとしていたが、最近CEO(最高経営責任者)が「労働力が4割減少するので、EV部品の内製化が必要」と発言したと報じられた。
欧州自動車部品工業会は、EV化が雇用と付加価値額に与える影響を分析した報告書を発表している。欧州で自動車の製造に係る雇用は257万人。うち部品製造に係る雇用は129万人だ。
EV化により失われる雇用は、内燃機関製造に係る人員の84%、50万人。一方、新たにEVの可動部分に係る雇用が23万人あり、差し引き27万人の雇用が失われる。特に、2030年からの5年間で急速に雇用が減少する。
欧州内のEV製造過程でバッテリーを中心とした可動部分が作り出す付加価値額は700億ユーロ(約10兆円)あり、EU内でバッテリー製造が行われない限り、付加価値額は海外に流出することになるとも部品工業会は指摘している。
今の世界のEV用バッテリー製造では、94%が東アジアの3カ国、中国、韓国、日本で行われている。21年のそれぞれのシェアは、中国(最大手CATL)44%、韓国(最大手LGエナジー)32%、日本(最大手パナソニック)18%だ。
現在、EU、英国、米国はEV用バッテリーを自国内で製造する取り組みを進めているが、リチウムなどの原料製造を中国が担っており、原料を含めたサプライ―チェーンを確立することは容易ではない。
欧州自動車部品工業会は、35年以降ICE車でのバイオ燃料の使用もありえるので、ICEも並行して製造を行うべきと主張している。
日本は選択肢を広く持つべき
中国、欧州を中心にEV導入が進んでいるが、これから伸びる東南アジア、アフリカなどの市場でEVが導入されるまでには時間がかかるだろう。欧州でも充電ポイントがあまり整備されていない国を中心にHVは依然として売れている。日本は新興市場のためにも幅広い選択肢を用意すべきだ。
EVになれば、基幹部品と原料の中国依存が高まるとの問題もある。強権国家に重要な資源を依存するリスクを最近経験した。まずは、強権国家に依存しない部品、原料供給体制を欧米とも協力し構築する必要がある。
幅広い選択肢を用意することは、自動車生産大国としての責任だ。
地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
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