2024年11月28日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年12月7日

 ニューヨーク・タイムズ紙の報道によれば、彼はホワイトハウスにおける会議でも、ロシア軍が占領地域に塹壕を掘り冬に備えて防備を固めている衛星写真を示して、交渉で奪還した領土を固めるべき時だと主張したという。しかし、この主張は馬鹿げている、何故なら、現状を交渉の出発点とすればロシアに領土の大きな部分を割譲することになること必定である。彼はエスカレーション、ことにウクライナ軍がクリミアに兵を進めることを怖れているのかも知れないが、交渉の機は熟していない。

問われるウクライナ支援の「耐久性」

 交渉を何時どのように始めるかはウクライナの判断に委ねるとのバイデン政権の基本線に背く趣旨を軍のトップが公に発言するのは異常であろう。11月11日、サリバン補佐官はウクライナ戦争に対する米国の立場について記者団に次のように説明している。

・交渉を何時どうしたいかはウクライナの判断である。彼等に圧力をかけることはしない。彼等に指令することはしない。

・ウクライナに関するG7首脳宣言(2022年10月11日)にもある主権と領土一体性に基づく「公正な平和」を支持する。

・ロシアが力によってウクライナ領土の併合を強行する状況では、ロシアに誠意ある交渉は期待出来ない。

・ウクライナが戦場で最善の立場を得られるよう可能な限り支援し、ウクライナが交渉のテーブルで最善の立場を得られるようにする。

 上記の論説は、ミリー議長の逸脱した発言にもかかわらず、大統領やサリバン補佐官の発言が政権の立場を明確にし、ウクライナとの関係を管理できている評価している。しかし、中間選挙で議会下院を共和党が奪還し、ウクライナ支援の耐久性が問題視され始めている。

 去る5月に400億ドルのウクライナ支援が下院で表決に付された際、57名の共和党議員が反対(149名の共和党議員と219名の民主党議員が賛成)したことがある。11月初め、マージョリー・テイラー・グリーンという狂暴な下院議員は「共和党支配の下では一文もウクライナには渡らない」「民主党が心配する国境はウクライナの国境だけで、米国の南の国境ではない」とトランプの集会で言い放った。下院の民主党進歩派にも交渉を要求する勢力が30名ほどはいる。バイデン政権はいずれ議会との関係で危機管理を迫られることになるかも知れない。

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