2024年4月20日(土)

Wedge SPECIAL REPORT

2022年12月6日

ユース世代の
〝心の成長〟を追いたい

保手濱 人間的な成長は世代を問わず普遍的なテーマであり、「成長する子どもたちをいかにプロに育て上げるか」という指導者側の視点はきっと、企業内における上司部下の関係や組織マネジメントにも学びが得られるはずだ。

荻野 サッカー関係者からは「(ユース世代の)育成こそが、日本サッカーを世界で浮上させる肝だ」という話を当時聞いていたので、ユースの世界でプレーヤーや関係者がどのように日々切磋琢磨しているかを取材して描くことは、次世代にとっても価値があると感じた。

 さらに、連載前から著者の小林先生とは、テクニックや戦術面だけでなく「ユース世代の〝心の成長〟を追いたい」とよく話し合っていた。その当時から格差や二極化といった問題が叫ばれ、若者を中心とした閉塞感が日本社会を覆っているように感じていた。

 葦人は愛媛の田舎町で育ち、決して裕福とは言えない母子家庭で暮らしながらも、自分のため、家族のために上京し、プロを目指す。さらに、物語の序盤で突然、希望するフォワード(FW)のポジションからサイドバック(SB)へのコンバートを命じられ、大きなショックを受けるも、その逆境を乗り越え、確実に将来への階段を駆け上がっていく。その過程におけるメンタル面での成長も、作品を通じて伝えたかったメッセージの一つだ。

常に前を目指し、周囲をけん引する葦人(コミックス9巻第88話、SHOGAKUKAN)

今野 葦人は作品の中でも私が特に思い入れのあるキャラクターだ。私自身は、問題が生じると立ち止まり、思い悩んでしまう性格だが、葦人は真逆。常に全力で理想を追い求め、〝壁〟にぶつかる度に「どうすれば乗り越えられるか」を思考し続ける。結果、周りのチームメートや監督、コーチらの協力を得ながら、その壁を一つずつ越えていく。

 特に好きなシーンがある。コミックス第2巻、ユース・セレクション(選考会)の場面だ。対戦する上級生チームに圧倒的な実力差を見せつけられ、葦人をはじめ、受験生チームはみんな心が折れ、落選を覚悟する。そのとき葦人は、地元・愛媛で彼の合格を願う母親、兄の姿を思い浮かべることで奮起し、チームメートを鼓舞しながら、上級生チームに一矢報いることになる。この一連の感情の動き、その細やかな描写に思わず心が揺さぶられた。

ユース・セレクションで一度は心が折れるも、母と兄の顔を思い浮かべ、奮起する葦人(コミックス2巻第14話、SHOGAKUKAN)

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