2023年1月30日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年12月16日

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diegograndi/Gettyimages

 メキシコのロペス・オブラドール(AMLO)大統領は、国家選挙機関(INE)を改組し選挙に関する大統領権限を強化する法案を議会に提出し、INEの機能を大幅に制限しようとしている。これに反対する大規模な街頭デモが行われている。11月13日には国内50都市で抗議デモが行われ、メキシコシティーだけで15~20万人が参加したと報じられている。

 ニューヨーク・タイムズ紙コラムニストのブレット・スティーヴンスは、11月22日付けの同紙に‘Will Mexico Be the Next Venezuela ?’と題する論説を書き、メキシコがベネズエラ化に向かう恐れがあると警告している。要旨は次の通り。

 国の資金で運営されながら独立した公的機関であるINEは、30年以上にわたり、一党支配から選挙により政権が交代する競争的民主主義に移行する上で不可欠な存在であった。

 AMLOは、大統領の権力をチェックする組織(最高裁判所、国の規制機関、人権団体など)を弱体化し、排除し、無力化して、70年代の大統領の過剰な権力を再現しようとしてきた。INEは、大統領による支配から比較的自由であり続けた数少ない組織であった。

 もし、AMLOの思い通りになるとしたら、どうなるか?2024年に6年間の大統領任期が切れ、彼が正式に大統領にとどまることはないだろうが、裏から支配することになろう。これは、3つの重要な点で、より深刻な悪化を意味する。

 第一に、AMLOの下で軍の役割が拡大し続けている。第二に、メキシコ政府は麻薬カルテルに事実上屈服している。麻薬カルテルは国土の3分の1を支配していると言われている。第三に、AMLOの新しい国家主義は、古い国家主義よりもさらに悪い働きをする。医療制度の見直しが試みられた結果、壊滅的な薬不足が発生した。国営石油会社PEMEXに多額の投資を行ったが、PEMEXは記録的な石油価格の上昇にもかかわらず、いまだに、赤字が続いている。福祉支出は前政権より20%増加しているが、子供を学校に通わせることに援助を結びつけるプログラムを廃止した。

 AMLO政権下でメキシコ人がますます直面するのは、経済的な福祉の喪失、個人の安全と政治的自由の侵害、そして法の支配に対する攻撃である。もしメキシコ人が用心深くなければ、これはベネズエラへの道となるだろう。

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 AMLOの法案によれば、独立機関であった国家選挙機関の委員は、選挙で選ばれることになり、予算は削減され、有権者名簿の管理は政府に委ねられ、下院の比例代表の議席は廃止され、選挙区ごとではなく政党の候補者リストから選ぶ方式となり、州レベルの選挙管理当局は廃止されるという。

 AMLOは、これまでに最高裁判事の人事に介入し、各種規制機関を廃止し、人権団体等NGOへの政府資金の供与を廃止するなど、民主制のチェック・アンド・バランス機能を弱体化させてきたと批判されてきたが、選挙管理制度への介入は、反民主主義的動きとして、野党のみならず市民団体などから強い反発を受けている。

 メキシコでは、任期6年の大統領の再選は憲法上禁止され、政治的にも歴史的タブーであるので、さすがにAMLOはそこまでチャレンジはしないと見られているが、この制度変更により自らの息のかかった後継者や議員を当選させ事実上の院政を敷こうとしているのではないかと疑われる。


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