今回のテーマは「米中間選挙終盤戦 バイデンとオバマの『役割分担』と『棲み分け』」である。11月8日の投開票日まで残すところ2日となり、下院は野党共和党が優勢だが、上院は最後の最後までどちらに転ぶのか予断を許さない。このような状況の中、ジョー・バイデン大統領率いる与党民主党は新たな選挙戦略に出た。
バイデン大統領とバラク・オバマ元大統領による「役割分担」および「棲み分け」戦略である。一体どのような戦略なのか――。
「安全地帯」を訪問するバイデン
中間選挙終盤戦を迎えたのにもかかわらず、バイデン大統領は激戦州に入らず、南部メリーランド州、東部ニューヨーク州、西部カリフォルニア州、オレゴン州、ニューメキシコ州といった民主党が強い「青い州(ブルーステート)」を訪問した。意図的に「安全地帯」を遊説先に選んでいることは間違いない。
米連邦上院選は中西部オハイオ州、南部ジョージア州、西部アリゾナ州等で大接戦になっているが、バイデン氏はホワイトハウスで演説を行うことが多い。しかも、バイデン氏の演説内容はどちらかといえば、有権者を鼓舞するものというよりも、政策と成果に関するものだ。
例えば、バイデン大統領は成立したインフレ削減法案によって、高齢者を対象に処方薬の費用上限を年間2000ドル(約30万円)、インスリンの費用上限を月額35ドル(約5000円)に制限することができると強調する。その上で、「製薬会社を打ち負かした」と語気を強める。
また、若者に対しては学生ローン返済の一部免除を発表し、すでに約2600万の申請があったと述べた。ちなみに、中間選挙における18~29歳の若者の投票率は、2002年は23%で、その後20%台で推移したが、18年は36%に跳ね上がり、民主党は下院で多数派を奪還した。若者の投票率は、民主党候補にとって勝敗のポイントになる。
バイデン氏は、トランプ氏が本格的に取り組まなかった財政赤字にも焦点を当てる。2021会計年度(21年10月~22年9月)において、財政赤字を1兆7000億ドル(約232兆円)まで削減したと述べて、富裕層と大企業に対する大型減税により財政赤字を増やしたドナルド・トランプ大統領を非難する。その際、「民主党は浪費家ではない」と加え、「民主党=増税」という誤ったイメージを払拭する。
つまり、バイデン氏は演説で政策と成果に時間を費やしていると言える。
フロリダ州とペンシルべニア州
バイデン大統領は11月1日、南部フロリダ州を訪問したが、今回の中間選挙において同州は激戦州ではない。知事選と上院選では、共和党のロン・デサンティス候補とマルコ・ルビオ候補が、民主党のチャーリー・クリスト候補とバル・デミングス候補に対して優位に戦っており、民主党にはほぼ勝ち目がない。要するに、バイデン氏にとってフロリダ州も安全地帯である。
にもかかわらず、フロリダ州を訪問したのは政治専門誌ザ・ヒル(電子版22年10月29日)が指摘するように、中間選挙後にフロリダ州は激戦州から共和党が圧倒的に強い「赤い州(レッドステート)」に変わる可能性があるからだ。24年米大統領選挙を見据えて、危機感を持ったバイデン大統領は同州を訪問し、歴史的に黒人の多い大学(HBCU: Historically Black Colleges and Universities)で演説を行った。そこで、バイデン氏は21年1月からHBCUに対して58億ドル(約8570億円)の政府補助金を出してきたと述べて、支持基盤である黒人に訴えた。
例外は、東部ペンシルべニア州である。バイデン大統領は上院選を戦うジョン・フェッターマン副知事の応援のために11月5日、激戦州ペンシルべニア州に入った。
米世論調査サイト「リアル・クリア・ポリティックス」によれば、バイデン大統領の各種世論調査の平均支持率は42.3%(22年10月18~11月3日)である。支持率の低迷を考えれば、地元の東部デラウェア州に隣接するペンシルべニア州を除いて、バイデン氏が激戦州に足を運ばないのは納得がいく。