2024年4月24日(水)

田部康喜のTV読本

2013年6月12日

 航空自衛隊の広報室と、仮名ながらテレビ局という組織の内側をできうる限り描こうとしている。「空飛ぶ」が視聴者をとらえているのは、元パイロットの空井とディレクターの稲葉の恋愛の物語ばかりではないと思う。

プロモーション・ビデオをめぐり展開する物語

 航空自衛隊の募集用のプロモーション・ビデオは、いったん完成する。ダーツバーでくつろいでいた若者たちが、災害救助の指令を受けると航空機のパイロット姿に一変して任務に向かう。広報室長の鷺坂が室員たちのアイデアを尊重して、自由に作らせた自信作は、上層部に対する試写で簡単にボツになる。

 ビデオの登場人物たちは酒を飲んではいない設定ではあるが、バーから現場に向かう映像が問題になったのである。

 制作の予算をほとんど使いきった室員たちは、知恵を絞る。亡くなった父親が輸送機に勤務していたことから、航空自衛隊の航空機の整備員になった女性自衛官をドキュメンタリーのように撮影することになる。

 女性自衛官が父親の墓参りに行く場面を撮影しているときに、上空に父親が乗っていたと同じ機種の輸送機が通過していく。まったくの偶然である。

 このプロモーション・ビデオが、世論の批判を浴びる。貧困化する若者を支援するNPOの団体の代表が新聞の夕刊で、就職できない若者につけこんで自衛隊が募集活動を行っているとコラムに書いたのである。さらに、帝都テレビのニュース番組でも取り上げて、ビデオがやらせの疑いがある、とも指摘した。

 広報室長の鷺坂は、帝都テレビに対して訂正を求める、抗議文を送ることを部下に指示する。帝都テレビは出演者の個人的な発言であることを理由として、訂正を拒否する。

 稲葉は密着番組の編集作業を、この騒動のなかで完成を急いだ。そのDVDと航空自衛隊のプロモーション・ビデオに関するニュース報道に対する意見書をまとめて、報道局長に提出する。やらせではないのに、そのような疑いを表明したNPOの代表の発言について、テレビ局として責任を明らかにすべきであると。

登場人物にいかに感情移入できるか

 「空飛ぶ」が描いているのは、社会と組織の摩擦であり、その組織のなかでもさまざまなあつれきが日々生じている。


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