2024年4月25日(木)

教養としての中東情勢

2023年1月4日

 デモは全国に広がっているものの、当局が動員連絡用のSNSを厳しく規制しているため組織的に集まることが難しくなっている。12月初めの3日間、全国50都市でデモへの連帯を示すゼネストが行われ、バザールや商店が閉店したが、1979年の革命時に王制打倒の大きな力となった労働者の大勢はデモへの支援に消極的だ。

 こうした中で、最も激烈な反政府デモの拠点、南東部のバルチスタン州ザヘダンでは少数派であるスンニ派の聖職者がハメネイ師批判を続け、支援者らが「ハメネイに死を」などと叫んで治安部隊と衝突を繰り返し、これまでに住民66人が殺害された。このままでは虐殺に発展しかねないとの懸念もある。いずれにせよ、反ヒジャブ・デモはすぐに収束することはなく、ハメネイ指導部を今後も悩まし続けることになるだろう。

新年早々に〝ガザ戦争〟誘発も

 イランの宿敵であるイスラエルの動きからも目が離せない。11月の総選挙で勝利したネタニヤフ氏率いる新政権が12月29日に発足した。しかし、新政権は発足当初から大きな〝爆弾〟を抱えており、「早々に爆発する」との見方が一般的だ。〝爆弾〟とは連立政権内の極右政党の存在だ。

 極右政党とは「ユダヤの力」(ベングビール党首)と「宗教シオニズム」(スモトリッチ党首)である。ベングビール氏はユダヤ人の優越性を主張する根っからの差別主義者といわれ、筋金入りの反パレスチナ。あまりの過激な言動で、イスラエル軍への入隊を拒否された経歴の持ち主だ。

 同氏は21年、東エルサレムのアラブ人の聖地「ハラム・シャリーフ」に集団で立ち入り、パレスチナ人と衝突した。この場所はユダヤ人にとっても「神殿の丘」と呼ばれる聖地だが、歴代政権はユダヤ人の立ち入りを抑制してきた。この衝突にパレスチナ自治区ガザのイスラム武装組織ハマスが参戦、11日間にわたる戦争の要因になった。同氏は警察を管轄する新設の国家安全保障相に就任。

 「宗教シオニズム」のスモトリッチ氏は財務相に任命された。同氏は財務相を担う一方で、ユダヤ人の入植地建設とパレスチナ自治区ヨルダン川西岸に関する権限も持つことになった。

 新政権は政府発足に当たって政策の指針を発表したが、①ユダヤ人がイスラエルの「全ての土地」の権限を保有、②ユダヤ人入植活動の促進――を盛り込んでおり、最初からパレスチナ人との共存に否定的だ。

 国際的にはイスラエルとパレスチナの「2国家共存」による平和が認知されており、バイデン米政権も支持しているが、新政権の方針はこれと真っ向から対立するもので、パレスチナ側は強く反発している。しかし、ベングビール氏は再び東エルサレムの「神殿の丘」を訪問すると見られており、「新たな衝突が起きるのは時間の問題」(専門家)。

 ヨルダン川西岸では22年、パレスチナ側に「獅子の巣」と呼ばれる新過激組織が誕生し、爆弾テロや衝突事件が続発、イスラエル軍の掃討作戦などでパレスチナ人130人以上が死亡し、06年以降最多となった。東エルサレムの聖地で衝突が起きれば、西岸ばかりかガザのハマスが参戦し、大規模な交戦に発展しかねず、新政権の発足は新たな緊張をもたらしている。


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