2024年4月19日(金)

未来を拓く貧困対策

2023年1月14日

 支援の対象は、生活保護の利用者か、もしくは新規申請者である。これは若干の解説が必要だろう。

 生活保護法第 4 条には、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」と規定されている。これを補足性の原理という。

 年金や失業保険をはじめとしたあらゆる収入を活用したうえで、なお生活に困窮する場合に生活保護の対象になるという決まりである。たとえば、生活保護の基準額が 13 万円で年金を 5 万円受け取っていた場合には、基準額に足りない 8 万円が生活保護費として支給されることになる。

 もとから年金を受け取っていた場合には問題にならない。しかし、「消えた年金」や法改正の影響もあり、実際には手続きをすれば新たに年金をもらえたり、増額になったりする人がいる。美原さんは自治体からの委託を受けて、年金調査や申請の代行を行っている。

 驚くべきは、救済された人の数である。美原さんの経験では、対象者の 3 人に 1 人に、本来受け取れる年金額より少ない金額が支給されている事例(年金支給漏れ)が見つかるという。

1 年で 476 人のうちのべ233 人の支給漏れが判明

 「議会の関心はそこまで高くありませんでした。反対されることはありませんが、『効果があるのか』という感じでしたね」

 北本市は、埼玉県内で初めて社会保険労務士事務所に年金調査業務を委託した。同市共生福祉課で生活保護を担当する中根聡さん(38歳)は、当時の様子を振り返る。

 「年金調査の委託をはじめたのは 17 年です。きっかけは年金法の改正です。美原さんが営業にきて、話を聞いた前任者が興味をもったのです」

 ここでいう年金法とは、正式には「公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律の一部を改正する法律」のこと。17 年に法律が施行されたことで、年金を受けとるために必要な期間(保険料納付済等期間)は、25 年から 10 年に短縮された。生活保護の利用者でも、新たに年金を受けられる人が相当数にのぼるはずと説明されたという。

 美原さんの言葉を信じた前任者の判断は正しかった。県内初の事業は、初年度から大きな成果を上げることになる。

 「当時の北本市の生活保護利用は 538 世帯 715 人、うち老齢年金の対象になるのは 476 人でした。そのすべてを再確認したところ、のべ223 人に年金の受給権が見つかったのです。総額は1億円以上、ほぼ同額の生活保護費が削減されることになりました。

 翌年以降も、毎年 数千万円の年金支給が見つかっています。生活保護のケースワーカーの多くは年金に関しては素人です。社会保険労務士が調査しなければ、見つけることはできなかったでしょう」

「消えた年金」問題は終わっていない

 なぜ、これほど多くの年金支給漏れが見つかるのか。背景には、いまだ解決の道筋が見えない「消えた年金」問題がある。

 07 年、社会保険庁(当時)の調査によって、基礎年金番号に統合されていない、持ち主不明の年金記録が約 5095 万件にのぼることが明らかになった。これは、基礎年金番号に統一する際に、名前や生年月日、住所が間違っていたことによって「名寄せ」ができなかったことなどが原因とされる。

 当時、社会保険庁職員のずさんな管理が問題とされた。しかし、漢字の氏名の読み取りにソフトウェアの自動変換機能を用いたり、生年月日が未入力の際に勝手に 10 日や 11 日といった数字の「丸め」を行ったりと、年金システムの構築・運用を担当したシステムインテグレーター(SIr)にも相当の問題があったとの指摘もある。(出所:TECH.ASCII.jp「情報社会の新たな課題~消えた年金のシステム問題~」,2010 年 4 月 26 日)


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