2022年9月27日(火)

未来を拓く貧困対策

2022年4月21日

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大山典宏 (おおやま・のりひろ)

高千穂大学人間科学部教授

1974年生まれ。社会福祉士。日本社会事業大学大学院福祉マネジメント研究科修了。福祉事務所や児童相談所での相談業務、生活保護利用者の自立支援事業の企画運営等の行政経験を経て、現職。著書に『隠された貧困』(扶桑社新書)『生活保護vs子どもの貧困』(PHP新書)『生活保護vsワーキングプア』(PHP新書)など。

 前回「人権よりも自治体の縄張りが優先される生活保護制度」は、生活保護の現場で自治体の都合が優先され、人権が軽視される現実をお伝えした。問題はなぜ起きるのか、どうすれば改善できるのかを考えてみたい。

(BSPC/gettyimages)

 

社会のルールを守らない人を救う必要はあるのか

 なぜ、自治体は住居喪失者に差別的な対応を取るのか。その本音に迫るのは簡単なことではない。

 自治体は、公式には差別的な対応を取っていることを認めない。それが社会的批判を招き、ひいては自分たちの身を危険にさらすことを知っているからである。関係者も口が重いので、メディアや有識者会議でその実態が伝えられることも少ない。研究の蓄積もない。こうしたなかで、確定的なことをいうのは難しい。

 だから、ここから話すのは、あくまで筆者の個人的体験から導き出された見解である。約20年の間、行政職員として生活保護の実態をみてきた。そのなかで直接的に、あるいは婉曲的に「社会のルールを守らない人を救う必要はあるのか」という問いを投げかけられてきた。偏見に基づく差別だと批判されることを承知で、その内容をお伝えしていきたい。

 住居喪失者は「不正受給予備軍」としての特性をもっている。生活保護費を渡した途端にいなくなってしまう、家賃として渡した保護費を他に浪費して家賃を滞納する、日雇い就労で賃金を得ても申告をしない、別の自治体でも生活保護を利用して二重取りをする。都市部で生活保護の担当の経験があれば1度や2度はこうした事例を担当したことがあるし、もっと多くの経験をした者もいるだろう。「信じたのに裏切られた」という経験が続けば、担当者は利用者を疑いの目で見るようになる。

 足立区も、支援団体から最初の抗議を受けた時点では、対応の正当性を主張していた。東京新聞の取材には、「ホテルとは別の場所で主に生活しているのではないかと判断した。別の自治体で生活したなら、生活保護を重複して利用することが懸念される」と説明している(東京新聞、2020年10月28日)。

 さらに、住居喪失者には、明確に不正とは言えなくても、社会規範からみれば眉をひそめる行為も目立つ。パチンコや酒などに依存して生活費を浪費する。まだ元気なのにあれこれと理由をつけて働かない。体の不調を訴えるわりに病院は受診せずに医師の指導に従わない。

 仮に、アパートに移った後にも問題は続く。物を捨てられずに自宅をゴミ屋敷にする。ごみ捨てのルールを守らず、深夜に大音量で音楽を流して近所からクレームが入る。訪問や面接の約束をしても、連絡もせずにすっぽかす。長時間のクレームで職員を拘束する。威圧的な言動や暴言が日常的にあり、時には暴力を伴う。居心地が悪くなれば、すべてを放り投げて姿を消す。

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