2022年10月7日(金)

未来を拓く貧困対策

2022年4月10日

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大山典宏 (おおやま・のりひろ)

高千穂大学人間科学部教授

1974年生まれ。社会福祉士。日本社会事業大学大学院福祉マネジメント研究科修了。福祉事務所や児童相談所での相談業務、生活保護利用者の自立支援事業の企画運営等の行政経験を経て、現職。著書に『隠された貧困』(扶桑社新書)『生活保護vs子どもの貧困』(PHP新書)『生活保護vsワーキングプア』(PHP新書)など。

 前回「住居喪失者への差別的対応 生活保護制度は変われるか」は、生活保護制度における住居喪失者への差別的対応の実態と、改善に向けた動きを紹介した。しかし、問題はそう簡単ではない。正直なところ、住居喪失者はなるべくよそに行ってほしいのが、実施機関の本音である。

(Mumemories/gettyimages)

 「責任をもつのはそっちだ」「いや、そちらだ」という実施責任をめぐる実施機関のバトルは日常茶飯事で、仲裁のために細かなルールがつくられてきた。ルールづくりは実施機関の都合が優先され、生活に困窮する人たちの人権を守るという視点は軽視されている。

「1日でも早く廃止にしたい」という行政の本音

 足立区の検証報告では、担当者は『東京都生活保護運用事例集』(以下、「東京都運用事例集」という)の判断基準をもとに廃止処分をしたとされる。主な根拠とされたのが「問2-6」である。検証報告では、一部を省略する形で引用している。

 実はこの省略された部分こそが、問題の本質に迫るものとなっている。Q&Aの全文は今回の連載の最後に掲載しているので、必要に応じて参照してほしい。

 問題の部分は2カ所ある。まずは、失踪した場合の生活保護の実施責任に関する部分である。検証報告では、(略)とされている。

2 失踪した場合の適用ルール
(2)保護の実施責任
 失踪した者がその後他の実施機関に保護の相談に現れた場合の実施責任は、次のとおりとする。
ア 失踪後、元の実施機関が保護の廃止を決定するまで 元の実施機関
イ 元の実施機関の保護廃止後 (廃止後)相談を受けた実施機関
 つまり、元の実施機関が失踪した日の翌日に保護の廃止決定までしていれば、その時点以降に他の実施機関に現れても、実施責任は戻さない。現れたとの連絡を受けた時点で廃止決定をしていなければ、実施責任を戻す。停止して一定期間待っていた場合は、同様に実施責任を戻した上で、現れた日付で停止を解除する。なお、停止期間中の支給済保護費は、3(2)で後述のとおり、原則として戻入を求めるが、本人からの聴取内容を調査の結果、停止期間中の居所を確定できた場合は、停止解除時期を遡及して差し支えない。
(出所:『東京都運用事例集』、傍線筆者)

 今回のように住居喪失者が失踪したあと、他の実施機関にその者が相談に表れた場合に誰が責任を負うのか。これは、実施機関が生活保護を廃止しているかどうかで変わってくる。

 たとえば、足立区で失踪して1週間後に隣の荒川区に改めて生活保護の申請がなされたとき、廃止をしていなかったり、停止をしていたりする場合は、足立区が引き続き実施責任を負う。一方で、廃止処分さえしていれば、足立区から荒川区に実施責任が移る。

 このルールは、実施機関にとって、「1日でも早く廃止処分をしたい」という強いインセンティブとなる。廃止さえしていれば、自分たちの仕事は免責されるからである。連絡が取れなくなったら、余計な調査をせずに速やかに廃止にする。こうした運用が生み出されることになる。

 なお、このルールは、a.現在地により保護を受け、b.無料低額宿泊所や簡易宿所等の経過的居所を利用している者となっている。今回は住居を失いビジネスホテルを利用しているので、このルールの対象となる。

廃止できるのは失踪から2週間後!?

 問題の2つ目は、廃止処分を行う時期に関する記載である。足立区の事例では、連絡が取れなくなってから4日で廃止処分が行われた。

 「問2-6」では、この部分についてもルールが決められている。意図したものかどうかはわからないが、検証報告では「3 その他」の存在は一切触れられていない。

3 その他
(1)他管内の簡易宿所を利用中で本ルールの適用を受ける者が失踪した場合は、2(1)の「保護を廃止する時期」は、失踪した日から2週間経過後の翌日とする。この場合、廃止まで一定期間待つこととなるので、失踪した日の翌日付で保護を停止する。
(例)X週月曜日:失踪 → X週火曜日:停止 → X+2週月曜日終了:2週間経過 → X+2週火曜日:廃止
(出所:『東京都運用事例集』、傍線筆者)

 この部分を最初に読んだとき、筆者は、「東京都は、『安易に廃止したらダメ』というルールをつくっているじゃないか。足立区はこのルールを守らずに4日で廃止したのか。ルールどおりにしていればよかったのに」と思った。

 そのあと、「でも、どうして検証報告では、この部分に一切触れずに『失踪廃止の際に依拠すべき規定・マニュアルが不明確(不存在)』と結論づけたのだろう」という疑問が浮かんだ。

 そのうえで、自分なりに仮説を立て、ルールをつくっている東京都福祉保健局保護課や、東京都内で長く生活保護業務を担当したベテランに確認して結論を得た。ただ、答えを説明する前に、ぜひ皆さんにも考えて欲しい。

 正解がすぐにわかる人は、生活保護の実務に長けた人か、法的センスのある人だろう。

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