問題を受けて、社会保険庁は廃止、10 年には日本年金機構が公的年金業務を担うことになった。「ねんきん特別便」や「ねんきん定期便」などの送付のほか、紙台帳等とコンピューター記録の突合せや、インターネットで年金記録を確認できる「ねんきんネット」の導入などを進めている。問題発生から 15 年が経過し、メディアで取り上げられることもほとんどなくなった。
しかし、このことは問題解決を意味しない。日本年金機構の「年次報告書」によれば、約5095 万件の持ち主不明の年金記録に関して、持ち主不明の記録がいまだ約 1773 万件残っている(図表 2)。
その大半が、ねんきん特別便などの対象で未回答のため持ち主が判明していない記録、持ち主の手がかりが得られていない記録となっている。「消えた年金」問題は、いまだ未解決の難題なのである。
根強く残る裁定時主義
問題の解決を阻むものとして、現在も根強く残る「裁定時主義」の問題がある。
総務省行政評価局が設置した年金記録問題検証委員会が取りまとめた報告書では、年金問題発生の根本にある問題として、(1)厚生労働省及び社会保険庁の年金管理に関する基本的姿勢、(2)年金記録の正確性確保に対する認識、(3)裁定時主義の問題の 3 つを挙げている。
裁定時主義とは、「年金保険料の納付の有無、職歴等は本人が良く知っているはずであり、年金給付の裁定請求時や相談時などには本人が来るのだから、その時に社会保険庁の保有している記録と突き合わせて確認し、齟齬があれば直せば良いという事務処理上の考え方」をいう。報告書では、社会保険庁は、裁定時主義という安易な考え方のもとに、厳密な姿勢を欠いたまま業務処理を行ってきたと厳しく批判している。(出所:「年金記録問題検証委員会結果報告書」,2007 年 10 月 31 日,p.7.)
報告書では、未統合記録 5000 万件のサンプル調査をしている(前掲書,p.9-14)。
住基ネットを活用することにより、2638 件(33.6%)の生存の可能性が高いものを特定することができ、かつ、基本的にはその住所データも得られると指摘した。約 3 割に年金支給漏れがあるという数値は、美原さんの経験則とも一致する。
裁定時主義が現在も払しょくされていないのは、「ご本人から未回答のもの」が 215 万件にのぼることからも容易に理解できる。ねんきん特別便を送付して本人からの問い合わせがなければ、そのまま放置しても問題はないというのが、日本年金機構の基本スタンスである。
では、裁定時主義を乗り越える手段はないのか。報告書では改善すべき点として、次のように指摘している。
記録を探し出すノウハウは、日本年金機構ではなく、生活保護を実施する自治体において蓄積が進んでいる。後編(ケースワーカーや社会保険労務士の必要な寄り添い方)では、「消えた年金」を取り戻す具体的なノウハウと、事業にかける現場の思いを伝えていきたい。